東京めざさない福岡の劇団   
  日韓合作舞台の大評判

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4人採用に30人以上が応募

   日下部が、「HANARO project」を企画するきっかけには、釜山出身の舞台演出家で、俳優トレーナーの金世一(キム・セイル)との出会いがあった。それは2013年2月だった。

   そのころ日下部は日本の演劇の在り方に疑問を持つようになっていた。それは多くの劇団が活動の舞台として東京を目指すことだった。東京でなく九州・福岡でできる演劇はないのか。こだわりを持つようになっていた。

   そんな時、金世一から、韓国の演劇も役者はみな首都ソウルに行きたがるという話を聞いた。

   「地方に残った役者は、オレたちはダメなのだろうか。負け組なんだろうか、と考えるというのです。それを聞いて悩みは同じなんだと思いました」

   日下部は、芝居の内容についても、三井三池炭鉱の歴史資料を読み込んでから脚本を書くなど、硬派な芝居作りをしてきたという。

   「その時も、安価な労働力として囚人に課せられた囚人労働や戦時下に動員させられた朝鮮人徴用工が出てくるわけです。福岡で演劇を続けていくなら、こういう歴史的事実が目に入ってくるのだから、一度韓国に行って、現地の人たちと交流するべきだろうと思いました」

   福岡と釜山の劇団に共通の課題があることを知った日下部は、福岡と釜山の間で「演劇」を軸にした文化交流の促進を目的とした、「福岡・釜山交流ひろば」を2013年6月に立ち上げた。

   金世一によるワークショップを皮切りに、韓国から劇団を福岡市に招聘し、『アリラン』の公演を行った。そしてそれらが、2014年の第1回「HANARO project」開催へとつながっていく。

   言語も文化も異なる日本と韓国。稽古や演出、公演を合同でやってみて、韓国側の演技や脚本、芝居に対する理解の仕方など、レベルの高さには驚いたという。

   大きな理由の一つは、韓国の演劇教育にあると見る。

   韓国には演劇を学べる学科のある大学が約60大学ある。それにくらべ、日本の大学は韓国の5分の1程度に過ぎない。これを人口比にすると、演劇を学べる大学数は日本の約10倍になるという。

   「4年間しっかり演劇学を学ぶことで知的財産が担保されているのだと思います。韓国舞踊もそうです。文化を途絶えさせないために大学教育があるという感じです」

   そうした韓国の劇団との合同制作によって、日本の俳優たちもレベルの高い韓国の劇団員に強い刺激を受ける。

   「HANARO project」で4人しか採用しないところに30人以上が応募してきた。若い俳優たちは相手国の言葉は喋れなくても、スマートフォンの翻訳機能を利用すればコミュニケーションがとれる。芝居作りにとって言語の違いは壁にならなかったという。

   日韓の劇団員による完全合作がもたらした成果は確かなもので、公益財団法人韓昌祐・哲文化財団の助成はプロジェクトの実施に大きな役割を果たしたと話す。

   「今後、われわれの予想を超えた演劇の文化交流が生まれるんじゃないか、そんな気がしますね」

   日下部は、「HANARO project」に確かな手ごたえを感じている。(敬称略)

(ノンフィクションライター 高瀬 毅)

公益財団法人韓昌祐・哲文化財団のプロフィール

1990年、日本と韓国の将来を見据え、日韓の友好関係を促進する目的で(株)マルハン代表取締役会長の韓昌祐(ハンチャンウ)氏が前身の(財)韓国文化研究振興財団を設立、理事長に就任した。その後、助成対象分野を広げるために2005年に(財)韓哲(ハンテツ)文化財団に名称を変更。2012年、内閣府から公益財団法人の認定をうけ、公益財団法人韓昌祐・哲(ハンチャンウ・テツ)文化財団に移行した。

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