「歴史問題」への踏みこみに心配もあったが
プロジェクトが5周年の節目を迎えた2018年。笑いのツボは福岡と釜山の舞台で異なるのだが、観客の反応はとても良かった。
「このまま続けていけば、『HANARO project』はうまく行くだろうと希望の持てる反応でしたね」
福岡公演の2日前、10月30日に韓国大法院(最高裁)が、韓国人元徴用工への損害賠償を認め、大きなニュースになった。従軍慰安婦問題や竹島(韓国では独島)の領土問題でこじれてきた日韓関係が、さらに悪化しそうな懸念があった。
それだけに『ナ チャレッチ?』の成功は、意義深かった。日韓両国とも格差社会が定着して、自尊心を持てない人々が増え、ナショナリズムが不満のはけ口になっている。両国の対立の背景を、九州戯曲賞受賞者の脚本家幸田真洋と演出家パク・ジョンウが描き出した。
「歴史問題に踏み込んだのは、今回の公演が初めてだったので、日韓の演劇関係者が大丈夫だろうか、と恐れていた点もあったのですが、冷静に進められました」
日下部は、西南学院大学時代に、劇団「轍(わだち)」を立ち上げ、劇団代表として脚本・演出を手がけた。卒業後も福岡市を拠点に演劇活動を続けていたが、30代を迎え演劇活動自体が壁に直面していた。
「これから何ができるかと考えた時、いろいろな形で目に入ってきた韓国とのつながりや交流を、演劇を通してやりたいと思ったんですね」
当時、韓国のテレビドラマ『冬のソナタ』が日本で大ヒットし、韓流ドラマが一大ブームを巻き起こしていた。
2002年にはサッカーのW杯日韓共同開催があり、韓国への関心は高まっていた。友人や劇団員の中に在日コリアンの人たちがいて、韓国との関係は身近なことに感じられた。
また福岡県出身の劇作家つかこうへいや、俳優でボードヴィリアンのマルセ太郎から強い影響を受けていた。二人とも在日2世で、在日の問題が彼らの表現の根っこにあることを知った。