我々は北極星に近づいているか
我が国で保険者機能の強化を志向する改革が進められていないかといえば、そうではない。その大玉は、国保の都道府県一元化を通じ、都道府県に保険者機能の発揮を求める改革である。都道府県には地域医療構想に基づく病床管理、医療費適正化計画の策定・実施の任が与えられている。その実施手段として、消費税財源による基金のほか、病床再編に向けた都道府県の権限の整備、地域別診療報酬の設定に向けた環境整備等が進められている。ひとりあたり医療費等のデータの地域間の相違を「みえる化」することで、自治体間競争を通じた医療費適正化への誘因を与えようとしている。医療保険制度改革について、保険者機能の強化という北極星を掲げた本書の出版には、一定の意義があったと考えることができそうだ。
ただし、この我が国の取り組みの成否は、都道府県がどの程度保険者機能を高めることができるかにかかっている。被保険者にとっては保険者を選ぶことはできないままである。都道府県は民主的な過程を経て選ばれる知事の主宰する政治的アクターであり、保険者機能を発揮するには、医師や地域住民等のステイクホルダーとの交渉など乗り越えるべき課題がある。リスク構造調整等の財源配分の原則、あるいは公費投入にかかる原則が不明瞭なままでは、保険者機能の十分な発揮は望みがたい。
本書には引き続き北極星を掲げる社会的役割が残っている。国保の都道府県化が、結局、ソフトな予算制約を持ったまま保険者が大きくなるだけに終わることのないよう、多くの人々が関心を持ってよいと思う。
経済官庁 Repugnant Conclusion