ウルフルズ、「ウ!!!」
ピンチはチャンスだぜ!!

糖の吸収を抑える、腸の環境を整える富士フイルムのサプリ!

   タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」

   物事は考え方次第でどうにでもなる、というのは方便でも何でもない。実際にそういう例に巡り合うことも少なくない。起きたことは重大で、深刻になろうとすればいくらでも深刻な意味を持つことでも楽しいと思えるようになることもある。

   2019年6月26日に発売されたウルフルズの通算15枚目のアルバム「ウ!!!」はまさにそんな例ではないだろうか。

   彼らに何が起こったのか。

   2018年2月、バンドのリーダーがソロ活動に専念したいとバンドを抜けてしまった。

   リーダーがいなくなったバンドがどうやってその危機を乗り越えたのか。レコード会社も移籍して心機一転したアルバムの先行配信シングルとして発売された「変わる 変わる時 変われば 変われ」の中にこんな一節があった。

    「変わらない 変わります 変わる 変わる時 変われば 変われ チェンジこそがチャンスなら」

  • 「ウ!!!」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)
    「ウ!!!」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)
  • 「ウ!!!」(ビクターエンタテインメント、アマゾンサイトより)

「遠慮しないでやらしてもらう」

   ウルフルズは1988年に大阪で結成された。その時のメンバーは、トータス松本(V・G)、ジョンB(B)、サンコンJr.(D)、ウルフルケイスケ(G)という4人組。そもそもはバイト仲間だったトータス松本とウルフルケイスケが意気投合して誕生した。バンド名はトータス松本が気に入っていたアルバムの帯にあった「ソウルフル」という文字が「ウルフル」と読めたということでついた。

   そういう結成に関わったキーマンのウルフルケイスケが抜けてしまった。バンドはどうするのだろう、と率直に思った。アルバム「ウ!!!」は、彼らの代表曲「それが答えだ!」のタイトルを借りれば「これが答え」だった。

   「色々あって、でも3人でやると決めた時からはそこに行くしかない。そうなったら明るいアイデアが出てきて楽になりました」

   3人は、筆者が担当しているFM NACK5の番組「J-POP TALKIN'」(7月6日・13日放送予定)のインタビューでそう言った。例えば、公式発表の前に「3人でやろうと思う」と打ち明けた斉藤和義やオリジナルラブの田島貴男は「俺も入る」と言ってくれたそうだ。かと思えば奥田民生は「Charさんに入ってもらってウルフルチャースケというのはどうだろう」とか、むしろ事態を楽しんでいるように応援してくれた、というのである。

   そんな後押しを受けて、彼らはファンクラブ会員を相手にしたツアーを開催。これから3人でバンド活動をするという報告とともに3人だけのライブを行った。

   「それが良かったですね。最初は出来るかどうか、というのが正直なところだったんですけど、続ける意思のある3人が集まった。バンド感も出たし、ここにキーボードを入れたらどうなるか、と前向きに考えるようになったし。レコーディングも3人でやりました」

   アルバム「ウ!!!」を聞いた時、一曲目の「センチメンタルフィーバー」に驚いてしまった。「どんなバンドになったのだろう」という興味津々な耳に飛びこんできたのは何とバンドの音ではなくてコンピューターを使ったテクノポップだった。しかもトータス松本だけではない。ジョンBも歌っている。でも、歌の内容は「バンザイ」や「ガッツだぜ!!」のような狂おしいほどの熱情感あふれる汗と涙のラブソングだった。そして、そんな始まりに反して二曲目からはここまでバンドメンバーの好きな音楽をあからさまに出したのは初めてではないかというほどにソウルやブルース、ロックンロールという「らしい曲」のオンパレードだった。

   「移籍した新しいレコード会社のスタッフと顔合わせで食事してどういう音楽をやるべきか話し合った時に、新しいことより得意なことに特化しようと。直球ど真ん中のことをやりきろうということになって。それなら遠慮しないでやらしてもらう、とこうなりました」

追い込みを食らうとエネルギーが出る

   洋楽のロックやポップスを日本語に乗せるという作業は今に始まったことではない。70年代のはっぴいえんどやRCサクセション、サザンオールスターズなど、それぞれが自分なりの「日本語のロック」を築いてきた。その流れの中に彼らもいる。でも、そうしたバンドと違うのは、ウルフルズが関西出身ということだろう。全編に溢れる人情。汗と涙と笑いの庶民性。得意な音楽に特化するといいつつ、これまでやったことのないと思われる都会的なソウルバラード「生きてく」もある。それも「ゆうべ食べた納豆のスパゲティ あれ美味かったなあ」という、納豆嫌いの多い関西人とは思えないユーモラスな生活感のある歌詞から始まっている。

   つまり、バンドが成り立つかどうか、このまま継続できるのかどうか、という瀬戸際だったと思われるにも関わらず、アルバムにも3人の言葉にも追い込まれた深刻さは感じられない。

   「ある種、追い込みを食らうと、エネルギーが出てくるのかもしれないね(笑)。『ガッツだぜ!!』の時もそうでした。どういう局面にいるのかとかも考えなかったし、無理に楽しもうみたいな悲壮感もなかった。新しい環境の人と楽しくやりました」

   トータス松本は、バンド以外にドラマの仕事もある。NHKの大河ドラマ「いだてん」にも主演中だ。彼は、バンドとの兼ね合いについてこう言った。

   「ウルフルズを全身全霊でやってるからCMとか役者で使おうと思ってくれるんでしょうし、他の仕事をすればするほど一生懸命バンドをやろうという気になりますね」

   どんなアルバムになるのだろう、どんなライブをやってるのだろう。6月14日に「Zepp DiverCity TOKYO」でツアー「センチ センチ センチメンタルフィーバー"飛翔編"」を見た。セッションメンバーに真心ブラザーズのギタリスト、桜井秀俊とMr.Childrenのバンドが長かったキーボーディスト、浦清英を加えた5人編成のバンドは、今までにはないアンサンブルと動きのあるステージを展開していた。

   アルバムの中の「リズムをとめるな」は、こんな歌詞だ。

   「リズムをとめるな 歌をやめるな」

   「涙をとめるな 好きをやめるな」

   「ドラムをとめるな ストロークをやめるな」

   「グルーブをとめるな セッションをやめるな」

   

   ピンチをチャンスに変えることが出来るかどうか。そう思えるかどうか。残された人達に「何としてもやりたい」という気持ちがあるかどうか。何はともあれ、まずは自分たちが決断することからしか始まらない。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

姉妹サイト