「おしゃれかつ楽しい」作品を生み出し続けた
1898年生まれのプーランクがこの曲を書いたのは1951年。世紀末のフランス・パリに生まれたプーランクは二度の大戦を潜り抜け、ようやく平和が戻ってきたこの時期、すでに円熟した作曲家・ピアニストとなっており、長年のパートナーである歌手ピエール・ベルナックと、初めて米国に演奏旅行に出ます。
そこで出会った2人の米国人ピアニスト、A.ゴールドと、R.フィッツダールのために、この曲は作曲されました。ちょうど依頼されていた映画音楽のことも念頭に置いて、彼は、ギリシャ神話の伝説の幸福の島を、20世紀に興隆してきたポピュラー音楽のスタイルをとり入れて書き上げたのです。プーランクは、一方で敬虔な宗教的作品を書く一方、もう一方で、「パリの縁日のような」と言ってもよい、シャンソンやミュゼットといった大衆音楽的なものもうまく自作に取り込む作曲家でした。第二次世界大戦後のクラシック音楽シーンはいわゆる難解な「現代音楽」というものが大勢を占めつつありましたが、プーランクは、巨大化学会社の御曹司というノーブルな出自であるにもかかわらず、つねにベル・エポックのパリを思わせるような、「おしゃれかつ楽しい」作品を生み出し続けたのです。
「シテール島への船出」は、短いこともあり、決してプーランクの代表作、というわけではありませんが、彼の音楽的傾向を知ることができる、とても薫り高く、楽しい1曲です。
本田聖嗣