ギリシャへの幸福に満ちた旅に誘われる プーランク「シテール島への船出」

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「おしゃれかつ楽しい」作品を生み出し続けた

   1898年生まれのプーランクがこの曲を書いたのは1951年。世紀末のフランス・パリに生まれたプーランクは二度の大戦を潜り抜け、ようやく平和が戻ってきたこの時期、すでに円熟した作曲家・ピアニストとなっており、長年のパートナーである歌手ピエール・ベルナックと、初めて米国に演奏旅行に出ます。

   そこで出会った2人の米国人ピアニスト、A.ゴールドと、R.フィッツダールのために、この曲は作曲されました。ちょうど依頼されていた映画音楽のことも念頭に置いて、彼は、ギリシャ神話の伝説の幸福の島を、20世紀に興隆してきたポピュラー音楽のスタイルをとり入れて書き上げたのです。プーランクは、一方で敬虔な宗教的作品を書く一方、もう一方で、「パリの縁日のような」と言ってもよい、シャンソンやミュゼットといった大衆音楽的なものもうまく自作に取り込む作曲家でした。第二次世界大戦後のクラシック音楽シーンはいわゆる難解な「現代音楽」というものが大勢を占めつつありましたが、プーランクは、巨大化学会社の御曹司というノーブルな出自であるにもかかわらず、つねにベル・エポックのパリを思わせるような、「おしゃれかつ楽しい」作品を生み出し続けたのです。

   「シテール島への船出」は、短いこともあり、決してプーランクの代表作、というわけではありませんが、彼の音楽的傾向を知ることができる、とても薫り高く、楽しい1曲です。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミエ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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