武道館がよく似合う
6月7日、今回のツアーの武道館公演を見た。二日間公演の二日目。超満員の客席を前にした3人は、70歳とは到底思えない声量と歌唱力と風格で存在感を見せつけていた。
アリスを語る時に「フォークグループ」という形容詞がつくことが少なくない。
でも、ライブを見た人は、ロックバンドを遥かにしのぐ谷村新司と堀内孝雄の朗々としたツインヴォーカルに圧倒されるはずだ。
繊細な艶や憂いを備えた谷村新司のドラマティックな声は時にシャンソンを思わせ、男性的で深みのある堀内孝雄の思い切りのいい小節の説得力はジャンルを超える。二世代は若いバンドを従えた一曲目の「LIBRA-右の心と左の心」と二曲目の「BURAI」に始まり代表曲が立て続けに歌われた前半には、彼らのロックバンドとしてのスピリットがほとばしっていた。
今回、改めて感じたのが矢沢透の存在だった。演奏の中心になって全体を引っ張って行くビートとグルーブには若さとは違う無駄のなさと確かな味がある。
更に、特筆しなければいけないのが、コンサートの中盤に用意されていた3人だけのパートだろう。ギター二本とコンガという成り立ちの編成。彼は、ピアノの弾き語りで80年代シティポップスを思わせる自作曲を歌い、ジャズミュージシャンとしての一面を見せる。そして、ユーモラスなトークで人柄を感じさせる。彼がいてこそアリスだと思わせるのに十分だった。
武道館は、日本のコンサート会場の"聖地"と言っていい。それは歴史的な由緒というだけではない。ステージに立つ人がその場所に相応しいかどうかをあからさまにする。そのバンドやアーティストの"化けの皮"を剥いでしまう。当然ながらアリスはそうではなかった。
矢沢透を中央に左に堀内孝雄、右に谷村新司と並んだ三角形は、武道館を完全に支配していただけではなく、むしろ祝福されているようだった。3人に武道館はよく似合った。