「単純で将来に十分配慮のない考え」による経済政策を批判
原氏は、太平洋戦争との対比で、いまの日本の経済政策の深刻な問題を巧みに論じたが、太平洋戦争もその遠因が語られるように、いまの財政金融政策の「泥沼」の遠因を、前世紀の日本経済でのバブルの発生と崩壊に由来するとみる人物が、ケインズの貨幣経済学への深い理解をもとにマクロ経済理論を構築した大瀧雅之東大教授だ。惜しくも昨年7月2日に60歳で逝去したが、その業績は、昨年9月に開催された追悼シンポジウムで詳しく論じられている。
日本語での生前最後の著作となった『アカデミックナビ 経済学』は、まさに高橋温氏の求める「マンネリに陥っている大都市型のマクロ経済学」を乗り越える1冊だ。
「バブルはわずかの時間で膨大な利益が発生しうることを、日本人の脳裏に深く焼き付けました。これが先のことを深く考えずに、とりあえずの結果を急ぐ風土を作り出した大きな要因でしょう」とし、「わかりやすく言えば、これまでとまったく反対のことを徹底的にやれば、うまくいくという単純で将来に十分配慮のない考え」で経済政策が進められていることを厳しく批判していた。
また、戦後の繁栄を支えた経済構造として、「日本型雇用慣行」、チームワークの中での競争をあげ、それを小泉内閣以来の「構造改革」で壊したことが低迷の原因だと喝破する。最近政府は、ようやく、「雇用」というものの政策的重要性に真に気付きつつある。
さらに、大瀧教授は、公債残高の累増について、「経済が停滞しているときに刺激策は当然のことのように見えますが、それが長期にわたると、その費用は必ず後に続くだれかが支払わねばならないのです」という。加えて、政府・日本銀行のマネーの供給(貨幣供給量)が経済の潜在的な生産力をあまりに大きく上回ってしまうと、市民に貨幣をもっていても財・サービスに代えられないのではないかという疑念を生じさせかねず、こうした疑念が生まれ、流布されると、貨幣への厚い信頼がゆらぎ、大変なインフレーションが起きる危険性が高いと懸念していた。
原氏と大瀧教授の結論はほぼ同一で、原氏のいう「敗戦」、すなわち、大瀧教授のいうとろの「高率のインフレーション」、から身を守るためには、社会保障費をはじめとした財政の歳出を抑制すること、人口減少に備え公債(国債)を減らすこと、そのためにはかなりの増税を受け入れなければならないこと、となる。
我々は、この不都合な真実からいつまで眼をそらしていられるか、残された時間はそれほど多くはない。令和の時代の最初にみなそれぞれがこれらの本をひもといて考えるべき重たい課題だ。
経済官庁 AK