「原点回帰」も「懐古趣味」もない
LUNA SEAが他のバンドと際立って違うのは、メンバーそれぞれの自立性だ。結成当初からリーダーを置かない、全員の合意がないと物事を決定しないという平等性。メンバー4人がソングライターと言う創造性。ステージでも全員が主役という個性のぶつかり合いが緊張感溢れるバンドの音になる。
30周年の武道館は、そんなそれぞれの持ち味が凝縮された濃密なものだった。
男性ソロアーティストの最多売り上げアルバムを持つRYUICHIの想いが溢れ張り裂けそうな熱唱、すでにソロアルバムを11枚出しているINORANの内面をかき乱すように狂おしいギターとX-JAPANの正式メンバーとしてだけでなくソロでも世界で演奏しているSUGIZOの空気を引き裂くようなエモーショナルなギターの対比。両親がクラシックの音楽家でもある彼の弾くヴァイオリンは、5月29日に発売になった新曲「悲壮美」のタイトルそのものだ。その中心には鋼のような強さとしなやかな弾力性を備えたロックそのもののようなJのベースと実家が能楽師という真矢の和太鼓を思わせる男性的で豪快なドラムがあった。彼は何と横笛と鼓を交えたドラムソロまで披露した。
「周年」の意味はいくつかある。
一つは、ここまで歩いてきたことの確認であり聞き手とともに過ごす祝祭としての時間だ。彼らの武道館はそこに終わっていなかった。
筆者が担当するFM NACK5のインタビュー番組「J-POP TALKIN'」でSUGIZOは「この10年、最新が一番自信がある。あの頃には帰りたくないし、音も稚拙で聞けない。今の自分たちが演奏してあげないと曲がかわいそう」と言った。
武道館では「周年」にふわさしく初期の頃の曲も聞けた。そこには「原点回帰」も「懐古趣味」とも違う「現在と未来」があった。更に、RYUICHIが今年一月に肺の手術を受けたというニュースが嘘のようだった。むしろ、そんな体験が万感の想いとなって歌に乗り移っているようだったのだ。
史上最強の武道館――。
ライヴ中に何度かそんな言葉が浮かんだ。
もちろん、これまでもそうした印象を持ったライヴはあった。でも、縦横無尽なレーザー光線やミラーボールなどの演出、音圧や音量、そして、演奏と一体になった客席の歓声や合唱。武道館がこんなに狭い会場だったかと思わせる怒涛の高揚感は他に思い浮かばなかった。
結成30周年の5月29日に発売した新曲「宇宙の詩~Higher and Higher」は「起動戦士ガンダム THE ORIGIN~前夜 赤い彗星」第一弾のオープニングテーマ。「聖戦と殺戮」「見えない正義」という状況は21世紀の世界だろう。RYUICHIは武道館のステージで「ガンダム」は「自分たちが歌ってきた世界観」と重なり合うと言った。
ロックバンドの存在意義。SUGIZOはやはり番組の中で「若い頃のロックは反抗の道具だった。今は、つながるための音楽」だと言った。彼は去年、紛争の絶えないパレスチナでライブを行っている。
LUNA SEAは6月にはタイと香港でライブを行い、レコーディングに入る。12月には新作アルバムの発売とさいたまスーパーアリーナでのライブも発表された。"個"と"集団"の両立。50代のロックバンドとして新しい「STORY」が綴られて行くと思わせる夜だった。
(タケ)