「交響曲」の意義を受け継ぎ壮大な世界をつくりだす マーラーの第3番(前編)

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指揮者だからこそ「交響曲作曲家」たりえた

   交響曲は、言葉に寄りかかっていません。言葉での表現を廃しているからこそ、音楽だけによる哲学の表現ができる・・・マーラーは総タイトルや楽章に名前を付けたこともありますが、誤解を受けるとして、すべて削除してしまったりしています・・・いわば、ベートーヴェンの「圧倒的な音の構造物」だけで哲学を述べる、フォロワーといえましょう。しかもこの両者は、交響曲をさらに発展させようと試みたのです。

   自由に展開させて、あとから改定を繰り返すブルックナーに対し、「指揮者」マーラーのアプローチは違っていました。彼は冷静な計算のもとにオーケストラを率いてゆくリーダーでしたから、当然「スコア(総譜)」が頭に入っていて、最初から最後までのプラン通りに、音楽を表現してゆく人でした。ベートーヴェンのあの魅力的な交響曲の音世界を超えるには、さらにもっと壮大な思想性をもって、しかも、圧倒的な結論に達しなければならない・・・そう、マーラーは、シューベルトがあまり成し遂げることができず、ブルックナーは端から重要視しなかった、「壮大なエンディング」を念頭に置いたうえで、用意周到に交響曲を組み上げてゆく、という方法をとったのです。物語が延々と展開する「楽劇」よりも、一つの結論に向かって突き進む「交響曲」というジャンルが、自分の作曲には向いている、とマーラーは判断したのもそのあたりではないでしょうか?ベートーヴェンや、ブルックナーが「前から」作ったのに対し、マーラーはいわば「後ろから」計画をしていったとも言えます。それも、彼が何より演奏家としては「指揮者」だったということに関連しているといえましょう。演奏会では棒を振り回すだけで「1音も演奏しない」指揮者ですが、マーラーは、だからこそ、「交響曲作曲家」たりえたのです。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。
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