曲順も「孤」と「番」
アルバム「三毒史」には、大きな特徴がある。それはアルバム13曲中6曲までが男性のアーティストと歌うデュエットアルバムという点だ。いきなり「この世は無常」と始まっている最初の日本語詞曲、2曲目の「獣ゆく細道」はエレファントカシマシの宮本浩次。去年の「紅白歌合戦」で歌われた先行シングルは、このアルバムの序章だったことになる。
「正反対の番同士」が主人公の4曲目「駈け落ち者」はBUCK-TICKの櫻井敦司だ。ロックもラップも入り乱れた6曲目「神様、仏様」は、ミクスチャーバンド、ZAZEN BOYSの向井秀徳、「女盛り」と季節を重ね合わせた8曲目「長く短い祭」は、元東京事変の浮雲、メディアや業界に対しての批評と思える10曲目「急がば回れ」は、ワールドツアーも経験していたジャズバンドPE'Zのヒイズミマサユ機、銀座が登場する「日本の夏」、12曲目「目抜き通り」はウルフルズのトータス・松本という具合だ。
わざわざ曲順を書いたのは、アルバムの偶数曲がデュエットで奇数曲が彼女自身。そこにも「孤」と「番」というテーマがあるように思ったからだ。彼女は、ライナーノーツの中でデュエット曲について「全ての収録曲は唄い手を含む演奏家への当て書きのつもりです。ご参加くださった方々ありきの必然で成り立ってます」と話している。
どんな男性と一緒に歌うか。その男性と表現してみたいのはどういうテーマなのか。そこには彼女の「妄想」もあるのかもしれない。一人では歌えない曲調やドラマ性。そうした曲がau携帯電話やコカ・コーラ、銀座の商業施設GINZA SIXなどのCMタイアップというせいもあるのだろう。それぞれに2019年という時代の様相が反映されている。そして、可憐なフランス語も混じる奇数曲「マ・シェリ」は鏡をテーマにした女性ならではの自問ソング。やはり奇数曲の「至上の人生」には、「生きていること」の「至上の安らぎ」と「至上の苦しみ」が歌われていた。