出だしが特徴的な低音の繰り返しを伴うパッセージ
ハイドンは、自分の曲にニックネームは一切つけていません。つまり、この交響曲第82番の「熊」という愛称も、だれか別人がつけたのですが、由来ははっきりとはわかっていません。しかし、第4楽章の出だし部分が、特徴的な低音の繰り返しを伴うパッセージとなっていて、それが、熊が歩いている様子を髣髴とさせるとか、パリの大道芸などにもみられる「熊使い」の音楽に似ているだとか、言われています。聞いたら耳に残るこの特徴的なパッセージは、おそらく、ハイドンが、パリの大管弦楽団・・・特に弦楽器パートが充実していたそうです・・・での演奏を想定して、工夫を凝らしたものかもしれません。彼の仕えていたエステルハージー家の楽団は、小編成のささやかなものだったので、遠く離れた大都会パリの華やかなアンサンブルを想定して、彼は勇躍、この壮麗な第4楽章を作曲したとしても不思議はありません。
確かなことは、フランスで、この交響曲のピアノアレンジ版が出版されたときに、楽譜に「熊のダンス」と記されていたということです。出版社が、売り上げを少しでも上げるために勝手に名付けたのかもしれませんが、もともとハイドン人気は高く、彼の曲の楽譜は、たとえそれがアレンジであっても「売れる」と見込んでいたとも言えましょう。
それ以来、この快活な交響曲は、ハイドンの意思とは関係なく、親しみを込めて「熊」と呼ばれています。
本田聖嗣