その後に待つ人生
山田さんは前半の結びでも、灘高出身者に「彼らはいま、どんな人生を送っているだろうか」と、皮肉を込めた自問を添えている。少年期のズルが人生にどんな影響を与えたのか。その行為に、ラクして生きたいという堕落を見るか、ここを凌がねばという必死さや要領のよさを感じるか。山田さんは攻め倒そうとはしない。とことん突き詰めることもない。どちらも青春の1ページとして、ユーモアを交えて淡々と記すのみだ。
秀逸なのは〈4 だと思う〉の解答だろう。山田さんに睨まれ、切羽詰まったKさんの心情は察するに余りある。しぼり出すような〈だと思う〉...だと思うのだ。
山田さんがこれを45年ほど覚えていたのは、付け足した4文字に「人生の真実」が宿るからかもしれない。カンニングという、ズルとウソの中に光る本音である。
Kさんのその後の人生は、虚実のいずれだろうか。いや、人生はそんな単純なものではない。いい人になったり、悪い奴になったり。彼女も、こっそり盗み見た「4」と、恥じらいつつ書き加えた「だと思う」の間を日々行ったり来たり...ではなかろうか。
そう。あなたや私と同じように。
冨永 格