前人未到の文化が開く
平成後半で一番語られたのは、"配信悪者論"ではないだろうか。
でも、CDが売れないのは配信のせいだ、という業界の声を後目に空前の数字を更新し続けたのがAKB48である。「会いに行けるアイドル」というコンセプトは「手の届かないところにいるのがアイドル」であるという「スター性」の否定だった。「総選挙」や「じゃんけん選抜」という奇想天外のアイデアは「芸能界の密室性」を打ち破った。秋元康が選ぶ曲はJ-POPの幅広さそのものであり、彼が書く詞は「日本の少女文化」を継承しているようだった。
2010年から9年間、年間シングルチャートの1,2を独占したという記録は永久に破られない平成の神話になるだろう。握手券があったからという皮相な議論では語り切れないことは言うまでもない。被災地に最も多く足を運んだアイドルが彼女たちではないだろうか。
音楽を取り巻く環境やツールの変化は当然のことながら世代の特性に反映される。
2012年にインディーズデビューした米津玄師は、まさしくその典型的な例だった。
彼が注目されたのはハチという名義でボーカロイドに書いた曲だ。もともとバンド活動をしていて思うようにならず、一人で好きだったBUMP OF CHICKENの曲に映像をつけて投稿していることから評判になった。BUMP OF CHICKENからRADWIMPSという2000年代バンドの流れを受け継ぎながらインターネット世代の自由さを存分に発揮している。音楽のジャンルに捕らわれない。作詞作曲、楽器の打ち込みやCGまで自分で手掛けてしまう全能型表現者の誕生。動画再生数2億回という天文学的な数字を残した2018年の「Lemon」は、平成最後を飾る曲となった。
と、駆け足で平成の30余年を辿ってみた。最後に触れなければいけないのが、違う意味で前人未到の場面を迎えていることについてだろう。
2009年、忌野清志郎、加藤和彦がこの世を去ってから年々訃報を聞く頻度が増している。
2006年に60歳の吉田拓郎がかぐや姫とともに静岡県掛川市の「つま恋」に約3万5000人を集めて野外イベントを行った時の観客の平均年齢が49歳。それでも「初めての大人の祭り」とメディアをにぎわせた。
あれから10年あまり。もはや還暦は"老人"ではなくなった。自身のラジオ番組の中で米津玄師を絶賛していた吉田拓郎、73歳。まもなく72歳の小田和正、71歳になる井上陽水。彼らだけではない。矢沢永吉や浜田省吾、山下達郎、中島みゆき、松任谷由実、そしてサザンオールスターズ。昭和の時代に「若者文化」と呼ばれた音楽の主役たちが開ける「新しい老人文化」という扉。それこそが令和という時代の「前人未到」ではないだろうか。
平成は音楽に溢れた時代だった。
令和が「音楽なき時代」にならないことを祈るばかりだ。
(タケ)