巴里のオムレツ 角田光代さんは石井好子の文に舌を巻き、よだれを飲む

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

命がけで食べているか

   当コラム、図らずも2週続けて「パリと料理」の話になった。

   角田コラムのタイトルは「卵、という完全無欠のしあわせについて」。私なら、読点を「卵という、」と新聞的に打つところだが、ここらがいかにも作家のセンスである。

   それはともかく、角田さんは、日本人について「私たちは食べることを文化にしていないかもしれない」と書く。同感だ。もちろん和食は日本らしい繊細な文化だが、本能的な食欲と直結しているとはいいがたい。直結していないからこそ「上品」ではある。

   世界一流の味が集結し、お金さえあればいくらでも美味しいものや珍味を入手できる東京、そして日本。その地で感じる、ある種の飢餓感がある。角田さんが書くように、我々は食べることを「人生の最優先事項」にしていない、すなわち食に対する日本人の淡白さ、欲のなさが、食べることを「文化」たらしめていないのではないか。単なる栄養補給や消費行動ではないけれど、最優先というわけでもない。

   その点、食卓のフランス人を観察すると、全身全霊、全力で食べているのが分かる。親のカタキのように食材と格闘し、命がけで食べる。この点に関しては庶民もセレブも同様、私が知る限り、皿の上がフォアグラでもサラダでも、オムレツでも同じである。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

姉妹サイト