先週は第一次世界大戦に散った英国の作曲家バターワースをとりあげましたが、今日は、同じ国の同時代の作曲家ですが、長生きをしたシリル・スコットをとりあげましょう。彼のピアの曲、「2つの小品 Op.47」に焦点をあてます。
生涯で400曲を超える作品を残した
C.スコットは1879年、イングランド北部のリヴァプールに近いオクストンという街に生まれます。アマチュアピアニストであった母の影響で音楽を始め、幼いころから楽才を発揮したため、ビジネスマンであった父親の反対を押し切って、10代の初め、ドイツ・フランクフルトのホーホ音楽院に留学します。一般の勉強は家庭教師に習い、学校には音楽だけを学びに行くという生活でした。1893年には、いったんリヴァプールに戻ったものの、音楽の勉強を継続し、また2年後にはフランクフルトに向かいます。
この時フランクフルトには、英国からロジャー・クイルター、大英帝国の一部だったオーストラリア出身のパーシー・グレインジャーなどが学んでおり、彼らは「フランクフルト・グループ」と呼ばれます。第一次世界大戦で血みどろの戦いを行う英独両国ですが、1890年代、文化の面では交流が盛んだったことがうかがえます。
1898年、英国に戻ったスコットは、リヴァプールで演奏家としてリサイタルを行ったり、生徒を教えたりしていましたが、作曲を本格的に始め、ドイツや英国のロンドンで彼の管弦楽作品が演奏されるようになります。
1910年代になって、彼の作品は英・独両国で評判となり、彼は生涯の間に4曲の交響曲、交響詩などの管弦楽作品、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、チェンバロなどの協奏曲、4つのオペラ、3つのオラトリオ、多数の室内楽作品など、1970年に生涯を閉じるまで、400曲を超える作品を残しました。
一方、彼はピアノのための小曲や歌曲において、独特の存在感を発揮しました。ロンドンの楽譜出版社ウィリアム・エルキンと契約を結んだ彼は、次々と作品を発表したのです。遠い外国を題材に取り入れたり、独特の新しいハーモニーを盛り込んだので、隣国フランスの大作曲家になぞらえて、「英国のドビュッシー」と言われたこともありました。
1曲目「ロータスランド」、2曲目「コロンビーヌ」
2つの小品 Op.47は、1905年に彼が作曲した曲です。1曲目が「ロータスランド」、2曲目が「コロンビーヌ」という題名がつけられています。1曲目は名ヴァイオリニストにして作曲家、F.クライスラーによってヴァイオリンとピアノに編曲され、彼自身によって頻繁に演奏されたので、大変有名になり、スコットの代表作として取り上げられることも多くなっています。
「ロータスランド」はそのまま訳すと「蓮の国」となって、仏教にゆかりの深い蓮の花ですから、どこか遠い東洋の国の様子、とも解釈できますが、実はスコットの父親は古代ギリシャの研究家でもありました。そして「ロータス」とは、「蓮」という実在の花のほかにも、ギリシャ神話の夢見心地になるという実をつける架空の植物、という意味もあるのです。
右手に現れる独特の旋律が、どこか夢の国にたたずんでいる様子を表している・・そんな聴き方もできるエキゾチックな曲です。
コロンビーヌはルネッサンス時代の、イタリア宮廷の即興仮面喜劇の1つのキャラクター、いわゆる「道化師」の1つです。
いずれの曲も2分程度、通して弾いても5分に満たない「小品」ですが、その詩的な題名と相まって、独特の世界を味わわせてくれる、個性的な曲です。
英国のクラシック音楽、というのは、まだまだ伊・独・仏などのものに比べると、世界的にはレパートリーが知られていませんが、素敵な曲がたくさん存在します。
本田聖嗣