サンデー毎日(4月7日号)の「サンデー時評」で、高村薫さんが「男女の均等は数合わせにあらず」と書いている。基本リベラルな作家の論考だけに、興味深く拝読した。
「今年も受験シーズンが終わった。医学部を目指していた女子受験生たちは、無事合格しただろうか」...筆者は冒頭で、昨年明るみに出た医学部の入試不正をとり上げる。
「女子というだけで不利な扱いを受ける世界が、かくも当たり前のように存在するとは」と驚く高村さんは、こうした現実に対する同性の反応にも戸惑いを隠さない。
「女子受験生の多くが従来から何となく現状を知っており、世の中そんなものとあえて甘受した上で試験に臨んでいると聞く。また現役の女性医師たちも...入試で女子の合格率が低く抑えられるのは、ある程度やむを得ないという認識らしい」
さて、そろそろ高村さんの「喝」が入ると思いきや、論は意外な展開を見せる。
「医療現場の実情を冷静に眺めた末の実感なのだろうし、それでも不利を承知で医学を志す彼女たちは、まさにあっぱれと言うに相応しい」
女子受験生や女性医師へのエールではあるが、どうやら声高に現状打破を叫ぶつもりはないらしい。それどころか、そんなオトコ社会からの脱出を勧める高村さんだった。
「海外に活躍の場を求めるのも一つの手ではあるだろう。この国の男性たちが死守する権威主義やムラ意識の旧弊など、女性たちが貴重な時間と労力をかけてあえて闘うだけの価値はないという考え方もできるからである」
国政は男性向き?
高村さんは話を政界に転じて後半に入る。地方議会に占める女性議員の割合が13%にとどまる現実は、この春の統一地方選でも大きく改善される見込みはないと。
「この国で女性議員が少ない理由はさまざま言われる。出産や子育てはもちろん、地方で顕著な男社会の論理、利益誘導のための地域社会の仕組みから女性がおおむね排除されていること、などなど」...そして、「国を変えるには地方から」だと、女性は連帯して地方議会を目ざしてほしいと訴える。読者の意見が分かれそうなのは、これに続く部分である。
「一方、政治の本態は権力をめぐる欲望のゲームであり、ときに戦争さえ遂行するものである以上、国政はどちらかといえば男性向きかもしれない。国政に限って言えば、男女均等は非現実な画餅であるように思う」
高村さんも自覚(覚悟?)して書いているはずだが、いわゆる「炎上ポイント」だ。異議のある読者も、ここは頭を冷やして結論部分に進んでほしい。
「壁を乗り越えるのも可。迂回するのも可。そういう自由こそが男女をともに解放する。必要なのは、活躍したい人が活躍できる物理的な環境の整備であって、単純な男女均等の数合わせではない」
それぞれが向き不向きに合わせ、生き方を自由に選んだ結果、ある領域の男女比には偏りが生じるかもしれない。それでいいじゃないか、という主張である。
「それはそれでこの社会の、現時点での平衡状態というものであり、無理な是正はおそらく新たな歪(ひずみ)を生むことになろう」