「突然やってきたフィーバー」に飲まれることなく
それまで、作曲家としては全く無名だった若きブラームスに、突如スポットライトが当たることになります。具体的には、音楽出版社が、この若き青年の作品をなんでも出版しようと提案してきたのです。
ブラームスは慎重な性格なゆえに、出版する作品をさらに厳選し、以後の作品も年には念を入れて作り上げることになります。そのおかげで、「突然やってきたフィーバー」に飲まれることがなく、活動拠点を、音楽の都ウィーンに移してからも、「ベートーヴェンを継ぐ才能」と世間から評価される大家となってゆくのです。
ブラームスの時には臆病なぐらいの慎重さは、彼の音楽と、生涯を決定づける大きなアドバンテージだったのかもしれません。
ピアノソナタ第1番も、第2楽章に、古いドイツの民謡の旋律などを入れる、という試みも行いながら、全体としては、それまでのドイツの伝統的なソナタ・スタイルを守り、見事に壮大なソナタになっています。彼が世に問うてもよい、と判断した最初の作品、新年度のこの時期に聴いてみたくなります。
本田聖嗣