■「アメリカ」(橋爪大三郎・大澤真幸著、河出新書)
アメリカとはどんな国なのか。その文化の基盤にある精神性はどのようなものか。リベラルという言葉は知っていても、その根底にあるキリスト教の思想はよくわからない。また、アメリカの発展を支えているプラグマティズムは、自然科学と宗教の関係をどう受け止めているのか。
本書は、橋爪氏と大澤氏の対談の形式をとっており、平易でピンと来るやりとりが随所にある。アメリカ社会の本を手にとって挫折した読者にはきっと発見があるだろう。
社会の基盤としてのキリスト教
1517年にルターが始めた宗教改革から100年後、理想の社会、理想の国を目指してピューリタンがアメリカに移住した。アメリカ人にとって、このことが神話。アメリカ人とは、真のキリスト教を信仰し神に祝福された人々なのである。たがいは平等であり職業・階級の差別はない。事業の成功は神の祝福であり、金儲けはなにもやましいことではない。神を信じて天職にまい進することがただしい人生なのだから。
カトリックや英国国教会では、王権はキリスト教の権威に依存しているが、アメリカの権威の出発点は、メイフラワー号に乗った人々が結んだメイフラワー契約。この社会契約を出発点として、独立戦争後の合衆国憲法の制定にいたる。個人は神と一対一で結びつき、人と人とは法律と契約で結びつく。アメリカが契約社会といわれるにはこうしたいきさつがある。
アメリカの組織は、議会も株式会社も、教会組織の慣習が出発点である。会衆派(Congregational)では、末端の教会でメンバーがすべてを話し合いで決め、本部の権威をみとめていない。この直接民主制の慣習が大統領を選挙で選ぶというアメリカの政治制度につながっていく。株主総会の建てつけも会衆派の運営とそっくりだそうだ。
なぜ資本主義がアメリカで成功するのか。
アメリカのキリスト教はプロテスタント。勤勉を尊び利子と利潤を肯定する。利益は神の見えざる手のご褒美でありその報酬は際限なく大きくてかまわない。人々は世俗の活動に勤勉に励み、正しいことをしていれば成功する。これがアメリカン・ドリームなのだ。