大切なのは一生懸命、そして正直に
方正さんは、それぞれの生徒にも個別に良かったところをコメントし、学生は真摯に聞き入っていった。そこには、普段テレビで見せるゆるいキャラクターはみじんも無く、芸の面白さや深さを真剣に伝えようとする噺家の姿があった。
ある学生に対しては「一生懸命さがよかった」。一生懸命にやると「お客様は聞いてくれる」、一生懸命にやることはとても大切だとしたうえで、
「大人になると、一生懸命にできなくなることがある。それはどうしてか? それは怖いから。大人が一生懸命にやって失敗したら、(ほんとうに)落ち込んでしまうから」
「みんなはまだ若いから、今のうちに一生懸命にやることが大事」
と、熱弁した。
学生からの質問も出た。「苦手な人とうまく付き合うのにはどうしたらいいか」と聞かれ、方正さんは「僕は適切な答えが言えない」という。「苦手な人であっても、その人のいいところを見つけていこう」という回答が模範だろうが、方正さんは苦手な人に対して、そういう付き合い方をしてこなかったそうで、正直に回答が難しい質問だと答えた。しかし、それでも大切なのは「嘘は言わないこと」。ここで「嘘の模範的な解答」を言ったら、帰りの新幹線で自分の発言を後悔して悩み続けてしまうと話し、正直であることの大切さを訴えていた。
方正さんは、この講義で学生には落語のテクニックは求めていないという。そこで、記者は「本当に伝えたいことは何ですか」と尋ねた。答えは、「人とのかかわり方」を少しでも伝えていきたいというものだった。