丸い随筆も悪くない
記者の荷物も、取材資料や機材でついつい重くなりがちだ。難しいのは機動性が求められること。単独行が多いし、場合によっては追いかけたり逃げたりと、荷物と一緒に走ることもある。だからキャリーバッグは必需品で、空港の荷物待ちで時間を取られないよう、5日間くらいの出張なら機内持ち込みの1個にまとめていた。
室井さんの場合、まとめすぎたことが誤算だった。そこから始まるユーモア随筆の読ませどころは、仙台駅に降り立った筆者が荷物を詰め替える場面である。字数にして150字弱の描写ながら、切羽詰まった室井さんの様子が目に浮かぶ。
おそらくタクシーを使えるような距離ではなかったのだろう。やれることをした女優は、作業を終えてこうつぶやく。「これでどうよ! よっこいしょ」
首から提げた鍵盤ハーモニカが私には謎のままだが、役者やタレントの移動は大変そうだ。通常なら事務所が車を手配し、マネジャーやらが同行するのだろう。しかし室井さんクラスでも独り旅があると知って、なんだか親しみがわく。
重さの「責任」を負うべきスタイリストへの気づかいや、温かい言葉にも好感が持てた。とんがったエッセイも面白いが、丸いのもいいなと思った。
冨永 格