重すぎた旅荷物 室井滋さんがスタイリストに示した優しい気づかい

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丸い随筆も悪くない

   記者の荷物も、取材資料や機材でついつい重くなりがちだ。難しいのは機動性が求められること。単独行が多いし、場合によっては追いかけたり逃げたりと、荷物と一緒に走ることもある。だからキャリーバッグは必需品で、空港の荷物待ちで時間を取られないよう、5日間くらいの出張なら機内持ち込みの1個にまとめていた。

   室井さんの場合、まとめすぎたことが誤算だった。そこから始まるユーモア随筆の読ませどころは、仙台駅に降り立った筆者が荷物を詰め替える場面である。字数にして150字弱の描写ながら、切羽詰まった室井さんの様子が目に浮かぶ。

   おそらくタクシーを使えるような距離ではなかったのだろう。やれることをした女優は、作業を終えてこうつぶやく。「これでどうよ! よっこいしょ」

   首から提げた鍵盤ハーモニカが私には謎のままだが、役者やタレントの移動は大変そうだ。通常なら事務所が車を手配し、マネジャーやらが同行するのだろう。しかし室井さんクラスでも独り旅があると知って、なんだか親しみがわく。

   重さの「責任」を負うべきスタイリストへの気づかいや、温かい言葉にも好感が持てた。とんがったエッセイも面白いが、丸いのもいいなと思った。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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