ひらがなの多い文章で
食にまつわる作品で知られる平松さんは、引用部分でもお分かりの通り、ひらがなが多い平易な文章が持ち味。私を含め、食い道楽の書棚には何冊か並んでいるはずだ。
かまぼこと海苔。シンプルな取り合わせには意表を突かれた。いや、それ自体は蕎麦屋の品書きあたりにありそうで驚きはない。それより、白と黒だけで一本書けるのかという意地悪な興味。生ギターひとつで2時間の舞台がもつのかと。さすがの筆力である。
手をかければおいしくなるわけではない。この、本作の隠れテーマには大いに同意する。雑味を排し、引き算の料理と言われる和食が典型だ。最たるものは生魚を切って並べた「だけの」刺身だろう。ゴマカシが効かないから、料理人は素材の産地や鮮度は当然のこと、包丁の切れ味、脇役の醤油やワサビ、器にまで気を配ることになる。
他方「足し算」の西洋料理でも、ブイヨンにバターや生クリームを加えたソースで素材を化けさせる伝統的なフレンチと、オリーブオイルで素早く仕上げるイタリアンなどは趣が異なる。どちらが美味いか、という話ではない。
平松さんが書くように、レシピが複雑なほど万人の舌が喜ぶわけでもない。料理には最上の、心を込めた「手抜き」というものがあるらしい。
冨永 格