海苔かまぼこの深さ 平松洋子さんがこだわる「手抜き」の妙とは?

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ひらがなの多い文章で

   食にまつわる作品で知られる平松さんは、引用部分でもお分かりの通り、ひらがなが多い平易な文章が持ち味。私を含め、食い道楽の書棚には何冊か並んでいるはずだ。

   かまぼこと海苔。シンプルな取り合わせには意表を突かれた。いや、それ自体は蕎麦屋の品書きあたりにありそうで驚きはない。それより、白と黒だけで一本書けるのかという意地悪な興味。生ギターひとつで2時間の舞台がもつのかと。さすがの筆力である。

   手をかければおいしくなるわけではない。この、本作の隠れテーマには大いに同意する。雑味を排し、引き算の料理と言われる和食が典型だ。最たるものは生魚を切って並べた「だけの」刺身だろう。ゴマカシが効かないから、料理人は素材の産地や鮮度は当然のこと、包丁の切れ味、脇役の醤油やワサビ、器にまで気を配ることになる。

   他方「足し算」の西洋料理でも、ブイヨンにバターや生クリームを加えたソースで素材を化けさせる伝統的なフレンチと、オリーブオイルで素早く仕上げるイタリアンなどは趣が異なる。どちらが美味いか、という話ではない。

   平松さんが書くように、レシピが複雑なほど万人の舌が喜ぶわけでもない。料理には最上の、心を込めた「手抜き」というものがあるらしい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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