「大事なのはメロディーをコピーすることではない」
隣の「先進国」フランスで評価されたファリャを母国は喝采で迎えました。パリ滞在中から書き始められていたピアノ協奏曲的管弦楽曲「スペインの庭の夜」や、バレエ音楽「恋は魔術師」、パリを席巻していたディアギレフ率いるバレエ・リュス(ロシアバレエ団)から委嘱を受けた同じくバレエ音楽「三角帽子」など、この時期のファリャは代表曲を次々と生み出しています。
大作の作曲が続く中、スペインに凱旋したファリャが、マドリードの文芸協会アテネオ・デ・マドリードで書き上げた曲が「7つのスペイン民謡」です。もとは、パリ滞在中に、オペラコミック座で活躍するスペイン人歌手、ルイサ・ヴェラの委嘱を受けたものでした。ファリャは、フラメンコのふるさと、アンダルシア地方の出身でしたが、曲に採用した民謡は、スペイン全土を意識したもので、北部アストゥリア地方の「アストゥリアーナ」、南部ムルシア地方の「セギディーヤ」、北東部アラゴン地方の「ホタ」など、幅広く、素材を各地に求めました。彼は、「大事なのはメロディーをコピーすることではない、その精神を理解することなのだ。そして、民謡は旋律だけで歌われることも多いが、ハーモニーも、それにもまして重要なのだ」ということを言い残しています。故郷スペインを愛したファリャによる、スペイン民謡のエッセンス、ともいうべき、曲集なのです。
オリジナルの編成は、歌とピアノという「クラシック歌曲」のスタイルで書かれていますが、スペインの香りが濃厚に漂うこの曲は様々なアレンジ・・たとえば最も「スペインらしい楽器」であるギターでの伴奏など・・・・で親しまれており、「スペイン語で歌われる歌曲の代表曲」とまで言われるようになったのです。
本田聖嗣