誰かに話したくなる知識
この種の作品は「ためになる随筆」とでも言うのだろうか。ふむふむと読み進めれば、現代にも通じる、誰かに話したくなるような雑学や蘊蓄がちりばめられている。
私は、縁側を意味する「簀子」に始まり、「廂」から「母屋」という接近の手順に興味をひかれた。すぐ思い浮かべたのは、ジャーナリストと取材対象の距離感だ。もっぱら政治部記者と大物政治家、つまり多くは男同士の話だが、私邸で立ち入れる場には、玄関先→玄関わきの応接間→リビングという順序がある。その先の寝室まで入った猛者もいたと聞く。
下心が求婚だろうが取材だろうが、生身の人間を相手に関係を深めるノウハウは、平安の昔から大して進化していないらしい。情報収集、周囲の懐柔、あとはマメに日参するのみだ。
いかにも3月号らしい、なんともハルメク話である。
冨永 格