独仏間で揺れたアルザスの、とある日曜日を描く
マスネの組曲第7番「アルザスの風景」

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「平和なアルザス」を願って

   マスネは、1870年普仏戦争が勃発すると、従軍していました。皇帝ナポレオン3世自らが捕虜になるという、いわば「フランスぼろ負け」の戦争で、その結果、アルザス地方は新生ドイツに割譲されてしまいます。つまり、1889年、マスネがこの曲組曲第7番を書いたとき、アルザスはフランスではなかったのです。

   しかし、普仏戦争中、アルザス地方に滞在したマスネは、その時の記憶をもとに、平和なアルザスの日曜日の一日を描きます。曲は4楽章に分かれ、「日曜日の朝」「酒場で」「菩提樹の下で」「日曜日の夕方」とタイトルがつけられています。

   フランスとドイツのはざまで揺れたアルザス地方は、欧州議会が中心都市ストラスブールに置かれたり、と欧州統合の象徴的一面も持ちつつ、しかし他方で、両大国の間で揺れた悲しい歴史もあります。最近でも、テロが起こってクリスマスマーケットが中止されたり、ユダヤ系の人の墓が荒らされたり、という事件が起こりました。

   マスネは、おそらく、「平和なアルザス」を願って、アルザスの民謡を曲に取り入れたりしています。ヨーロッパの十字路といわれたアルザス地方をモチーフにした、心が穏やかになる名曲です。そして、マスネの作品の中でも代表的な作品として、頻繁に演奏されています。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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