「東西南北」と書いて「よもひろ」さんは実在するか ニッポンの名字(2)

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「鼻の短いゾウ」「宇宙人はいるのか?」と同じ理屈

   そう言えば昔、「鼻の短いゾウ」の話を聞いたことがあった。その個体が「いない」ことを証明するためには、世界中のゾウをすべからく調べなくてはならない。また「宇宙人はいるのか?」という問いにも近いかもしれない。「いる」というのなら、その1例を示せば済む。しかし「いない」証明は、130億光年にわたるすべての銀河を調べなければならない...という話だ。

   森岡氏は、

「ですから、仮に誰かが『自分は、その名字を見た!』と主張すれば、誰もそれを完全に否定することはできません。できることとしては、いろいろ状況証拠を積み重ねて『本当は存在しないのでは?』というところが限度です。このあたりが幽霊の目撃談に似ているため、私は『幽霊名字』と呼ぶようにしました」

   でも、なぜ「東西南北(よもひろ)」さん、「春夏秋冬(ひととせ)」さんといった名字が、存在する根拠なしに本やインターネットで堂々と紹介されているのだろうか?

「大きく分けて2つの理由がありますが、両方とも意外に単純です。1つは『名字事典』の傾向にあります。珍しい名字を多数収録した書籍はたくさん出ていますが、近年では『収録数の多さ』を競う傾向が強くなっています。要するに『多い方が勝ち』的な風潮となり『名字を吟味して収録数を絞るよりは、怪しくても多い方が売れる』と、事典の編集者も考えているのです。とんでもない大誤解ですけどね」

   う~ん...。同じ執筆を生業とする記者としては、何とも耳の痛い話である。

「もう1つの理由は『苦情処理』です。未収録の名字があると、本人や関係者から厳しいお叱りがきます。でも、幽霊名字を掲載しても、本人からは苦情は来ません。だって、存在しないんですから。つまり編集者としては『安心して』掲載することができるのです」

   森岡氏が「東西南北(よもひろ)」さんと「春夏秋冬(ひととせ)」さんは「実在せず」の結論に至ったのは、本当にいるなら名乗り出てきても不思議はないはずなのに、これまで一度も「存在確認」が出来ていない点にあるようだ。

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