様々な工夫によって、できる限り、普通の生活を送る
本書に登場する当事者は、比較的初期でもあり、スマホやタブレットを活用したり、当事者であることを説明するヘルプカードを携行し手助けをしてもらうなど、様々な工夫によって、外出し、世界を広げている。
仙台の丹野智文さんの場合、スマホが最大のサポートツールだ。道案内としてのナビは当然として、リマインダーとしても優れモノだそうだ。例えば、講演先でホテルに泊まり、同行者と朝8時に朝食の約束をした場合、7時と7時50分の2回、アラームをセットしておき、7時に起床しアラームを止め、7時50分のアラームでレストランに降りていくという風に活用している。街で困ったときには、「若年性アルツハイマー本人です。ご協力をよろしくお願いします」というヘルプカードを携行し、現在地がわからなくなったときなどには、躊躇することなく、カードを見せて、助けてもらうという。
道に迷うことは、認知症当事者にとって、外出時の最大のリスクであるが、複数の当事者が、手作りの地図を作っていた。単なる地図ではなく、降車するバス停や目的とする建物が視認できるよう、経路から見える風景が書き込まれたものだ。「普通」の生活を送るために並々ならぬ努力をしていることに驚かされる。
本書の中で、認知症と診断されて7年が経過した茨木の平さん(仮名)が語っているが、
「早期の段階に自分の人生を自分で決めると自覚してほしいんです。自覚したときに、私は変われたと思っています。隠したって症状は進みます。それなら、ここが悪いんだという自覚を持ち、そこで何を足していけば、できないことができるようになるかを考えたほうがいい。メモを取る、スマホを持つ、そういうことを初期の段階で学べばいいのです」
なんといっても「当事者自身の人生は自分で決めてほしい」というのだ。この自覚こそが、できる限り、普通の生活を送るために必要なのかもしれない。