財政破綻が生じてからでは取り返しがつかない
そこで、霞が関の実態に焦点をあてた労作「官僚たちの冬~霞が関復活の処方箋」(田中秀明著 小学館新書)が、まさに時宜を得て、今月発行されたことに注目したい。
明治大学公共政策大学院教授の田中氏は、官僚の出身で、1985年に東京工業大学大学院終了後、大蔵省(現財務省)に入省し、予算・第二の予算といわれる財政投融資・自由貿易交渉・中央省庁等改革という戦後の画期となる行政改革などに携わった。
氏は、冒頭の「はじめに」で「霞が関の劣化や凋落は、政府のガバナンスの問題と捉えなければならない」という。そして、「結論を先取りすれば、誤った政治主導の結果、官僚の自立性が低下し、それは政府全体のパフォーマンスやガバナンスの低下にもつながっている」と鋭く指摘する。ただし、問題の根本は、以前から存在し、「霞が関の官僚は、政治家との緊密な関係、自ら利害や省益を追求するという意味で『政治化』し、本来発揮すべき『専門性』が疎かになっているのだ」と喝破する。
全体は6章からなり、これまでの政治・行政改革を振り返り、官僚たちの冬の時代を概観した「ジャパンアズ・ナンバーワンから失われた20年へ」、これまでの改革の結果としての安倍政権の政治主導や政策形成過程を考察した「安倍政権の光と影」、霞が関の組織である省庁の再編などを述べた「未完の行政改革」、霞が関の住民に焦点を当てた公務員制度改革を取り上げた「公務員の『政治化』がとまらない」、日本以外の先進国の公務員制度改革を解説する「先進国の公務員制度」、今後を展望し、どのような改革が必要かを考えた「霞が関への処方箋」で構成される。
最後の章では、田中氏が入省した「財務省改革」について、具体的な改革案が示される。いまはほとんどいない経済学などでの博士号取得者など専門能力をもつ実務家を増やすこと、財政の透明性を高めること、幹部職員の任期を原則3年とすること、幹部職員の省内公募を導入すること、一般の企業ではいまや標準装置の内部統制の仕組みを構築することなどをあげる。要は、「世界標準の財務省」、「選挙権を持たない将来世代の代弁者」たれというのだ。
最初に引用した著作で、草野厚氏は、「組織の構成員が、組織の目標や目的を常に意識しながら、仕事を行なう。これを誤らなければ、組織はそれほど大きな失敗はおかさないはずだ。しかし、残念ながら、本来あったはずの目標や目的は忘れられがちなのが現実のようだ」としていた。核の臨界同様、財政破綻が生じてからでは国民への被害が大きすぎ、取り返しがつかない。なんのために仕事をしているのか、田中氏の指摘するような処方箋によって、財務省をはじめとする日本の官僚制はそれを取り戻すことがきるのだろうか。評者も自問自答中だ。
経済官庁 AK