文字でも滑稽味を保つ
これはもう、ほとんど一編の滑稽噺であろう。どこまでが事実で、どこからが創作なのか、そこはどうでもいいくらいに、語り口、いや書きっぷりが冴えている。
落語を文字に起こしたものは、ふつう面白くもなんともない。名人と呼ばれる噺家になるほど面白くない。雑誌でコラムを連載している落語家さんも結構いるが、大抵は高座の面白さには遠い。ストーリーだけでなく、声色や身ぶり手ぶりを含む総合芸術だから、情報伝達の手段が文字と(せいぜい)挿絵だけ、というハンディは如何ともしがたい。
その点、三三さんの連載は、文字にした時の「歩留まり」がいい。語りの滑稽味がよく残されている。ご本人の文才か、編集者のさばきが巧いのか、たぶん両方だろう。創作落語の語り手なら「脚本力」があっても不思議ではないが、三三さんは人間国宝、柳家小三治師匠の弟子で、古典落語のホープの一人である。
老医師とのやりとり、いずれ「死神」あたりのマクラで披露されるかもしれない。
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三三師匠の連載と同様、この「コラム遊牧民」も節目の50回目です。これまで31誌から50人の作品を採り上げました。何度か使わせていただいた雑誌は、週刊文春と週刊新潮が各5回、週刊朝日とサンデー毎日が各4回、週刊ポストが3回といったところ。
50回目までは同じ筆者を登場させまい。そんな初志はなんとか達成できました。これもひとえに、職業ライターや著名人が、毎週毎月、せっせと書いてくれるお陰です。
これほど多くの雑誌が発行されていること自体、遊牧民を始めるまで知りませんでした。まさによりどりみどり、頼もしい限りであります。引き続き、ご愛読を。
冨永 格