結婚の重圧 山内マリコさんは「小舟」に耐えた20代の自分をほめる

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男の船も小さくなって...

   このご時世、お嬢様なんて「地位」が残っているのかどうか怪しいが、そんな境遇への憧れだけはバブルの残り香のように漂い続ける。JJ世代の保守的な女性にとって、お嬢様の延長線上にある「幸せな結婚」はずっしりと重たいものかもしれない。20代で結婚し、仕事も趣味も子育ても、という「満点」の夢に挑み続ける。

   しかし、38歳の山内さんが発するメッセージは「焦らないで」である。しんどい小舟かもしれないが、軽々にキャリアの夢を捨てちゃだめと。

   そもそも、専業主婦なるものは絶滅危惧種である。終身雇用と年功序列の昭和は遠く、男たちが乗る船もずいぶん小さくなった。このご時世、「クルーザー」で人生を渡る独身男性などひと握りだろう。自分で漕いでいる男はいいほうで、非正規労働の荒海に漂う人も多い。結婚しても、ほぼ同サイズの小舟を男女で漕ぐ生活が待つかもしれない。

   親の七光りなどがない大多数の若者が頼れるものは、男も女も己のスキルだけだ。手に職、社会経験、語学でも資格でもいい。20代は山内さんが言う「自分の小舟で海を渡れる力」をつける時期で、結婚や出産はその後の選択肢ということで、どうだろう。

   なにしろ、女性の平均寿命は90歳に迫り、20代は人生まだ序盤なのだ。とりあえず、オール2本だけで生きていける力をつけておきたい。もちろん男性も。

   なお山内エッセイのこの回は、タイトルとして芥川賞作家、大庭みな子(1930-2007)が残した言葉を引いている。結婚における心構えの肝要だ。大意は以下の通り。

〈幸せな結婚とは、いつでも離婚できるのに離婚したくない状態である〉

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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