クリスマスの12月25日が過ぎると、日本の年末は、それまでのクリスマス的飾りつけから途端に「正月仕様」に代わりますが、新年1日こそ休日なものの、2日から通常の日常が戻ってくる欧州では、クリスマスの雰囲気、たとえばツリーやイルミネーションなどの飾りつけは、夜が長い1月末ごろまで続けられます。
今日ご紹介する1曲は、そんなシーズンに聴きたい、短いけれど、心が洗われるような1曲です。3分30秒ほどの合唱曲ですが、子どもたちのクリアーな声によって歌われる作品、ジョン・ラターの「この麗しき大地に」です。
米国や80年代以降の日本で人気爆発したラター作品
ジョン・ラターは1945年にロンドンに生まれました。ハイゲートスクールで、作曲家として同じく活躍することになるジョン・タヴナーなどと一緒に教育を受け、当時の英国を代表する作曲家、ベンジャミン・ブリテンの指揮のもと、彼の「戦争レクイエム」に合唱団員として参加します。その後、オックスフォード大学のクレア・カレッジに進み、合唱団員となり、このころから作品を発表し始めます。30歳からは、クレア・カレッジの音楽監督を務め、合唱団を世界的に有名にしますが、より音楽活動に専念するために4年ほどで職を辞し、教え子である卒業生を中心に「ケンブリッジ・シンガーズ」を1981年に設立。同時にコレギウム・レコーズという自身のレーベルを作って、多くの聖歌隊の合唱曲をレコーディングしていくことになります。
「この麗しき大地に」は、フォリオット・サンドフォード・ピアーポイントが作詞したアンセムに曲をつけた作品です。1835年、英国のスパに生まれたピアーポイントは、ケンブリッジのクイーンズ・カレッジで学び、オックスフォード運動に参加したトラクトリアンでした。トラクトリアンとは、キリスト教信仰の古い伝統をイングランド教会(聖公会)の典礼や神学に反映させようと主張した人々で、オックスフォード出身者が多くを占めました。彼が29歳の時に発表したのが「この麗しき大地に」です。
ラターも非常に信仰心の厚い人物で、手兵ケンブリッジ・シンガーズを率いて、数々の新作を発表していきますが、彼の音楽は一貫して平易で、誰にでもわかりやすく、しかも印象的な旋律と、親しみやすいハーモニーを持っているために、世界中で人気となりました。一方、伝統的な聖歌隊などからは、信仰的な内容ではあるが一種の色物である、と冷めた目で見られていることもまた真実です。
しかし、音楽の力は海を越え、ラターの作品は、米国や80年代以降の日本で、特にアマチュア合唱団などで爆発的な人気となり、人々に親しまれています。
日本のお正月も一種の清々しさを感じられますが、欧州の1月の、まだクリスマス続く敬虔な気持ちも感じられる、そんな雰囲気にぴったりな、素敵な合唱曲です。
本田聖嗣