2019年にはどんな漫画の"トレンド"が生まれるのか。宝島社「このマンガがすごい!」編集部の薗部真一編集長に大予想してもらった。
同編集部は総勢700人へのアンケートをもとに作成したランキングから、500冊以上の漫画を紹介するガイドブック「このマンガがすごい!」を2005年から毎年末に刊行している。「ヒット漫画のプロ」が2019年に注目する作品とは?
ネットで話題→単行本化の流れ
まず2019年にヒットしそうな作品と、その傾向を聞いた。名前があがったのは十日草輔氏の「王様ランキング」だ。ある国に生まれた非力で耳が聞こえない第1王子・ボッジの成長を描く物語で、体格がよく圧倒的な力を持つ王、大人顔負けの剣術を持ち人気者の第2王子、ボッジを見守る不思議な「カゲ」といった個性的なキャラクターそれぞれの思惑が交錯し、展開していく。
「キャラの濃い登場人物がそれぞれ信念を持って行動するため、先の読めない展開、予想を超えたカタルシスが味わえます。『このマンガがすごい!2019』で、現在活躍中の人気漫画家から注目している作品についてのアンケートをいただいたところ、『週刊少年ジャンプ』で連載中の『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴先生をはじめとした4人が、この作品を挙げました。ネット上で、作者が独自に発表していた作品に注目が集まり、単行本化され、人気が出る流れは、今後ますます進んでいくと思います」
同作品は漫画投稿サイト「マンガハック」で連載されている。12月29日時点 で78話まで無料公開中だ。2019年2月12日に単行本1巻・2巻(いずれも702円)がKADOKAWAから同時発売となる。
「2018年はまさに石黒イヤーでした」
薗部氏個人の「おすすめ」も聞いた。まず1冊目は、石黒正数氏の「天国大魔境」。大災害に見舞われて荒廃し、魔境と化した日本で"天国"を探す少女・キルコと少年・マル、そして隔離された近未来的な施設で暮らす少年・トキオらを軸に展開するSF冒険譚だ。キルコらとトキオの世界は同じ時間軸なのか、マルとトキオの顔が似ているのには理由があるのかなど、現時点では謎が多い。
「『このマンガがすごい!2019』オトコ編ランキング第1位にランクインした作品ですが、じつは、石黒先生が関わった作品は、『このミステリーがすごい!2019年版』にも入っており、2018年はまさに石黒イヤーでした。2巻に収録予定の話で衝撃の事実も発覚します! 丁寧に張られている伏線に、"探偵脳"を駆使して立ち向かうべし」
天国大魔境は講談社の漫画雑誌「アフタヌーン」にて連載中。19年3月22日に単行本第2巻の発売を予定している。石黒氏はミステリー小説をランキング形式で紹介するガイドブック「このミステリーがすごい!2019年版」(宝島社)のベスト20に入った、似鳥鶏氏の『叙述トリック短編集』のカバーイラストも担当した。ミステリーの伏線や奇抜なアイデアに定評のある石黒氏は、このカバー・帯にもある"仕掛け"を施しているという。
もう1冊は、稲井カオル氏の「うたかたダイアログ」。ドラッグストアでアルバイトをする女子高校生・宇多川と、男子高校生・片野の軽妙なかけあいを中心に展開していくラブコメディーだ。
「現代的なこのテンポ感には、"マンガ話芸"の新しい可能性を感じています。なんだかんだで、2人が仲良しなのもいいですね」
白泉社の漫画アプリ「マンガPark」にて掲載。19年1月18日に単行本第3巻(最終巻)の発売を予定している。