社会主義ソビエトで出世、作曲家として要職を歴任
日本では、音楽教育の現場で、特に一昔前、よく「ソナチネ」という形式が持ち入れられました。大規模なピアノ曲になりやすい「ソナタ」の形式を、提示部~展開部~再現部という形式は保持しながら、小さく短くしたものが「ソナチネ」で、特にバロック~古典派の時代にたくさん作られたため、弾きやすい作品が多く、子どもの教育現場で、「ソナチネアルバム」的な題名のものが、多用されました。
カバレフスキーは決して、この「ソナチネ 第1番」を子どものために書いたとは言っておりません。しかし後年、ソビエトとなり、多くの作曲家が当局のプレッシャーを感じるようになってからも、カバレフスキーは、社会主義的国家の枠組みの中で地位を極め、同時に子ども向きの多くの作品を作り、幼年教育にも力を入れることになります。そんな、彼のもともとのネイチャー・・持って生まれた性格傾向・・・がこのソナチネにも反映されています。
年少者のための「単純明快さ」と、社会主義ソビエトが掲げた「社会主義リアリズム」が、妙に響きあったのか・・・カバレフスキーの音楽は、同世代のプロコフィエフと比べても、より明るく、明解なものが多く、そんなことを考えてしまいます。そのため、上記プロコフィエフや有名なショスタコーヴィチなどは、「当局から睨まれた」抑圧された状態で作曲を続けなければいけなかったのに、カバレフスキーは、出世街道を驀(ばく)進し、ソ連の作曲家として、要職を歴任します。
3楽章からなる「ソナチネ 第1番」は、少しピアノを勉強した子どもでも弾ける難易度でありながら、力強く軽快な曲調を持ち、カバレフスキーの音楽そのものと言えます。ちょうど旧西側の人間が、東側の運動選手を見ているような、そんな気分になりますが、同時に不思議と爽快感も感じられます。
年末の大掃除や正月準備も思わずはかどる、モダンかつ元気なピアノ曲です。
本田聖嗣