ジョークにするしかない
今年も様々な音楽のランキングデータが発表になっている。配信チャートやカラオケで歌われた曲の上位に入っている「驚異のロングヒット」が「糸」だ。オリジナルは92年のアルバム「EAST ASIA」。今年最も多くの歌手にカバーされた曲だろう。でも、彼女が実際に歌っているライブバージョンはこれまでCDにはなっていなかった。2007年に発売されたライブ映像「歌旅~中島みゆきコンサートツアー2007」で見ることが出来るものの、その模様を収めたライブCDには収録されていなかった。つまり今回が初のライブCD化ということになる。
「糸」だけではない。「歌旅」「縁会」「一会」とそれぞれのツアーはライブCDにはなっている。でも、今回の12曲は、そこに収録されなかった曲ばかりが集められている。「ベスト盤」でありながら「初CD化盤」というライブアルバムでもある。
収録曲の中で「糸」と並んで目を引くのが「時代」だろう。1975年の発売でありながら、時が経つほどに説得力を増している。今年の紅白歌合戦でも歌われる曲だ。ここでは東日本大震災の後のツアー「縁会」から選ばれている。
アルバムの多くが、時の流れの中で傷つき取り残され、戦いながらも沈黙せざるを得ない人たちへの心情が綴られた曲であることを思うと「時代」がアルバム全体のテーマ曲のようにも聞こえる。彼女がデビュー以来一貫して歌ってきていることが凝縮されているライブアルバムだろう。
平成最後の師走。それぞれの曲の中の儚さと愛おしさ、叶った夢と叶わなかった夢、口に出せた願いと出せなかった願い。「風の笛」では、「言葉に出せない思いのために お前に渡そう風の笛」と歌っている。アルバムの最後の曲は「一会」のツアーの最後の曲だった「ジョークにしないか」。最新のツアー「一会」の一曲目で始まり、その最後の曲で終わる。2018年の中島みゆきが伝えたいこと。これが単なるライブベストはないことの証しだろう。こんな歌詞がある。
「伝える言葉から伝えない言葉へ
きりのない願いは ジョークにしてしまおう」
ジョークにするしかない。
そんな年末を迎えようとしている。
(タケ)