「世情」、なぜ今、この曲なのか
ライブが選ばれている三つのツアーはそれぞれ性格が違う。2012年から13年にかけて行われた「縁会」は、従来のコンサートツアーが「夜会」に準じて「縁会」と名付けられたもので震災後初のツアーだった。更に、2015年から16年にかけての「一会」は「今、聴いてほしいうた」というキャッチフレーズがついており、これまで余り歌われたことのない曲が中心。どれもその時代の彼女の心境や音楽に託そうとしたものが感じられる内容となっていた。
「中島みゆき ライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」には「歌旅」から3曲、「縁会」から5曲、「一会」から4曲の計12曲が選ばれている。
どの曲がどのツアーだったかは一種の「出典」という意味合いが強いかもしれない。違うツアーから選ばれたものであるものの、一つのコンサートとして流れている。それぞれの曲がなぜ選ばれているかを想像することで聴き方の楽しみが倍加するはずだ。
例えば、一曲目の「もう桟橋に灯りは点らない」は、ツアー「一会」の一曲目だった。94年のアルバム「LOVE OR NOTHING」の中の曲だ。でも、聴きながら思い浮かべるのは時の流れの中で切り捨てられ姿を変えてゆく地方都市の様子だろう。今年もそうだったように平成という元号は日本列島が災害に見舞われた時代として残るのかもしれない。なぜ、今、この曲なのか。このベストが平成最後の年末に発売されたことは偶然ではないはずだ。「縁会」ツアーで27年ぶりに歌われた「世情」は、まさに今の歌だ。