タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
今、最もチケットが取りづらいアーティストの一人が中島みゆきだろう。特に彼女が原作・脚本・作詞・作曲・主演をつとめる世界にも例のない音楽舞台「夜会」は一人二万円という高額にも関わらず入手困難超プラナチケットにもなっている。2019年1月30日から行われる「VOL.20 リトル・トーキョー」もチケット発売となり過熱ぶりに拍車がかかりそうだ。
それに先駆けて2018年12月19日に「中島みゆきライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」が発売になった。タイトルにあるようにこれまでの彼女のライブアルバムの中からリクエストの多い曲を中心にまとめたダイジェスト版である。
「夜会」とは異なるコンサート
中島みゆきのステージ活動はいくつものスタイルに分かれている。一つは言うまでもなく「夜会」だ。89年に始まり今回は30周年。当初はすでに世の中に出ている曲を新しい文脈や物語の中に置くことでそれまでにない光を当てて解放するという趣旨だった。回を重ねるごとに進化し、今のような物語も曲も書き下ろしオリジナルという形になったのは、96年の「VOL.7 2/2」から。そして、2013年からは「夜会」のために書き下ろされた曲を集めたダイジェストコンサート「夜会工場」もスタート。やはり2018年12月19日には2017年から18年にかけて行われた「夜会工場2」を収めたライブDVD・ブルーレイも発売になった。
「中島みゆき ライブリクエスト-歌旅・縁会・一会」は、そうした「夜会」関連のものではない。「夜会」が、コンサートのように「歌を聴かせる」ことに留まらない表現者としての総力を注ぎ込んだ舞台だとしたら「歌旅・縁会・一会」は、通常のコンサートツアーの映像で成り立っている。今の彼女のライブを味わえる恰好の作品だろう。
中島みゆきのデビューは1975年。70年代・80年代・90年代・2000年代と四つの時代でシングルチャート一位を記録した唯一のソロアーティストであり、2010年代も加えて提供曲が五つの時代で一位となった唯一のソングライターでもある。
ただ、それだけの実績がありながらライブ作品が少ないことは業界の謎として語られたこともあった。特にコンサートツアーの様子が映像化、CD化されたのはデビューから30年以上経った2007年の「歌旅」が初めてだった。
なぜそんなに時間がかかったのか、ということに対しては当時、「ライブは一期一会。その会場の環境や条件とそこに集まった観客の空気、ミュージシャンの状態も含めてどれも毎回違う。例え数か所で収録したとしても、そのツアーを記録したとは言えない。ようやくそこを克服した完成度の高いライブが出来るようになったと思えたから」という話をしていた。