思い出を閉じ込める
2010年夏、バルト海の沈船から18世紀のシャンパンが30本ほど見つかったというトピックを新聞コラムで採り上げた。フランス革命前に製造された、世界最古の「中身入りボトル」ということだった。味見した船員によると「とても甘く、オークの味や非常に強いタバコの香りがし、小さな気泡も立っていた」という。
北欧の海底60メートルという絶好の冷暗所で、200年以上「寝かせた」ことになる。これほどのお宝ではないにせよ、何年か手元に置いたシャンパンは特別の1本になろう。
記念日のシャンパンをまとめ買いし、何年か後に関係者が味わうという前田さんの提案。懐だけでなく「残り時間」にそれなりの余裕があっての話だが、掲載誌の読者には、この年末年始に早速やってみる人が結構いそうな気がする。
「赤」には何十年も寝かせたものがあるが、祝い酒のシャンパンは、目の前にあるものを豪快に空ける一発勝負のイメージだった。晴れの日を閉じ込める、という発想は新鮮だ。
こうして時間軸を意識しながら、前田さんの作品を読み返す。「葡萄の木の寿命は人とほぼ同じである」...この始まり、改めて秀逸だと思った。
冨永 格