ワイン好きは未来志向 前田京子さんは「思い出カプセル」に家族の時を託す

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思い出を閉じ込める

   2010年夏、バルト海の沈船から18世紀のシャンパンが30本ほど見つかったというトピックを新聞コラムで採り上げた。フランス革命前に製造された、世界最古の「中身入りボトル」ということだった。味見した船員によると「とても甘く、オークの味や非常に強いタバコの香りがし、小さな気泡も立っていた」という。

   北欧の海底60メートルという絶好の冷暗所で、200年以上「寝かせた」ことになる。これほどのお宝ではないにせよ、何年か手元に置いたシャンパンは特別の1本になろう。

   記念日のシャンパンをまとめ買いし、何年か後に関係者が味わうという前田さんの提案。懐だけでなく「残り時間」にそれなりの余裕があっての話だが、掲載誌の読者には、この年末年始に早速やってみる人が結構いそうな気がする。

   「赤」には何十年も寝かせたものがあるが、祝い酒のシャンパンは、目の前にあるものを豪快に空ける一発勝負のイメージだった。晴れの日を閉じ込める、という発想は新鮮だ。

   こうして時間軸を意識しながら、前田さんの作品を読み返す。「葡萄の木の寿命は人とほぼ同じである」...この始まり、改めて秀逸だと思った。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)

コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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