行動経済学の活用余地は大きいが、限界やリスクに留意が必要
本書では、大腸がん検診のほか、乳がん検診、肝がん予防のための肝炎ウイルス検査、臓器提供の意思表示など、様々な分野において、ナッジの活用可能性があることを教えてくれる。
ただ、残念ながら万能ではないようだ。時として、効果が短期的だったり、人々を混乱させてしまい、想定しなかった抵抗や効果を生んでしまうことがあるという。また、臓器提供の意思表示などでの活用は、行き過ぎた介入といった倫理的な問題を引き起こす可能性もある。
臓器提供の意思表示については、日本やドイツでは、提供してもよいと思う場合に意思表示をすることとなっているが(オプトイン)、フランスやオーストリアでは提供することがデフォルトとなっており、提供したくない場合に意思表示することとなっている(オプトアウト)。その結果、日本やドイツでは臓器提供に同意する者が10%台にとどまっているのに対し、フランスやオーストリアではほぼ100%になっている。
こうした大きな差が生じた理由を、国民性の一言で片付けることはできないだろう。デフォルトの設定が大きな影響を与えたことは想像に難くない。臓器提供というセンシティブな問題であるだけに、デフォルトをどう設定するかそれ自体について、慎重な検討が必要だろう。
行動経済学の活用余地は大きい。しかし、同時に、活用する分野によっては、倫理的・社会的な課題を含めて、丁寧に検討していくことが必要な場合もある。今後、様々な試行錯誤を積み重ねながら、医療現場の課題解決に応用されていくことを期待したい。
JOJO(厚生労働省)