ちょっとした工夫で、がん検診の受診率がアップ
がんに罹患する国民が2人に1人となっている今日において、がん検診の受診率アップは公衆衛生上の課題となっている。
これほど恐れられている病気でありながら、諸外国と比して、その受診率は決して高いとはいえない。恐れられているから受診しないのか、それとも、気にはなっているが多忙にかまけて先送りしているのか、事情は人それぞれであろう。しかし、いずれにせよ、自治体が、勧奨通知を送っても、なかなか受診してもらえないのが実情である。
ところが昨今、行動経済学が、がん検診の受診率アップに貢献できるという話が盛り上がっている。本書では、八王子市の大腸がん検診の受診勧奨の事例が取り上げられている。
八王子市では、前年に大腸がん検診を受診した者に対し、その翌年、便検査キットを送付している。2年前、未受診者の受診アップを目指して、未受診者を対象に、受診勧奨ハガキを送ることとした。文面は、2つ用意し、パターンAは、「今年度も大腸がん検診を受診すれば、来年度も便検査キットを送付します」、パターンBは、「今年度に大腸がん検診を受診しなければ、来年度は便検査キットが送付されません」というものだった。
結果は、パターンAの受診率が22.7%だったのに対し、パターンBは29.9%と有意に高かった。
これもまた、前述の「損失回避」で説明されるという。受診しないと翌年、便検査キットが送られてこないという損失を回避したいという思いが、受診率を高めたというのだ。
通知の工夫一つで、受診率がアップするという事実は大きい。追加コストをかけずに、人々の行動変容を促し、政策効果を高めることができるというのだから、この手法(ナッジ)への関心が高まるのは無理もない。