そもそも「テンポ」って何だろう 「時代」と「時間」から考えた

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「正確な時計」の呪縛から一時逃れて...

   時代は下って、ベートーヴェンの活躍した古典派後期の時代、19世紀初頭に、ついに音楽のテンポをはかる機械「メトロノーム」が発明されます。ベートーヴェンもいくつかの作品にメトロノーム指示を取り入れています。しかし、機械式時計の急速な発展に比べて、メトロノームの進化はごくゆっくりで・・あけすけに言うと、精度の向上がほとんどなされず、20世紀になって電子式のメトロノームが登場するまで、「振り子式」のメトロノームは、かなりいい加減なテンポを刻むことも多かったようです。そのため、クラシック音楽のレパートリーで、どう考えても、メトロノーム表示がおかしいと思われる作品が、ベートーヴェンのものも含めて、数多く見られます。

   音楽は時間芸術ですから、それぞれの時代の「時の感じ方」が反映されています。機械式の正確な時計ができる以前にルーツを持つ音楽ですから、その「テンポ」は、「時をどう感じるか」によって決められていたわけですが、これは、機械が刻む「時間」、現代人が意識している「時間」とは異なっていたと思われます。クラシック音楽のレッスンの現場では、「テンポを正確に」という言葉が飛び交いますが、実は、「テンポとはある程度幅のあるもの」というのが真相といえましょう。

   正確な時計が時を刻むようになって、音楽も徐々に影響を受けてきました。古い時代の曲は、ゆったりとしたテンポ、またあまり刻みの多くないものが多く、現代に近づくほど、速く、刻みの多い音楽になるからです。

   「テンポ」は単純な「速度」ではなく、人間の内なる感覚に基づいた、「『時』をどうやって認識するかという意識」と言えるかもしれません。時間とともに流れてゆく、音楽そのものの重要な要素です。

   師走の忙しい時期、「正確な時計」の呪縛から一時逃れて、「音楽的な時間」に身を任せるため、我々はコンサートに足を運ぶのかもしれません。

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール

私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でフプルミエ・プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目のCDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラマ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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