今年ももう残すところ1か月、師走の声をきくと、「今年もあっという間だったなあ」という感想を持つ人も多いかと思います。子どもの頃は長く感じられた1年も、大人になるとあっという間、まさに「光陰矢の如し」を実感してしまいます。
そんな時間を感じる時期ですから、今日は音楽における「テンポ」を取り上げましょう。
世界中を席巻し、現代のあらゆる音楽の基礎となったといってもよいクラシック音楽は、音階やハーモニーだけでなく、「テンポ」という概念も発明しました。現代では、ほとんどの人が、一般名詞として、音楽から派生した「テンポ」という言葉を使っています。
音符そのものよりも「テンポのほうが重要」
では、「テンポ」とは何でしょうか?これはクラシック音楽の母国、イタリアの言葉です。音楽用語辞典を引くと、簡潔に、「楽曲の速さ」と出てくるのですが、実はイタリア語で速さを表す言葉は「ヴェロチタ」という別の言葉があります。「テンポ」は、本来速度を表すことではなく、「時」や「時間」を表す言葉・・英語だとタイム(Time)、フランス語だとタン(Temp)となっている言葉なのです。そのためテンポを「速度」と訳しきることに抵抗もあり、辞書によっては「拍をどれぐらいの長さで打つか」と説明的に言い換えているのもありますが、「規則的に繰り返される拍」は「リズム」という別の単語もあるわけですから、考えてみたら「テンポ」という言葉、結構定義があいまいで使っているのではないでしょうか?
テンポは結局速度なのか、繰り返す拍子の間の長さのことなのか?
クラシック音楽の楽譜は、大切なものから順番記入してあります。曲のタイトル、献呈者、作曲者名、作品番号も楽譜の冒頭に置かれますが、音符が記される楽譜の冒頭に置かれる記号は「アレグロ」「モデラート」「プレスト」などの「テンポを表す言葉」がほとんどです。すなわち、それ以降に書いてある、音の高さを決めるト音記号や、調性を決める♯や♭などの「調号」や、音符そのものよりも、まず「テンポのほうが重要」なのです。
それほど楽曲にとって重要な要素である「テンポ」が、あいまいでいいのか?
話は飛びますが、古い時代の単位、例えば米国のヤード・ポンド法や、日本の畳、などは「人間中心」の考え方をしています。すなわち距離や長さの単位「フィート」は文字通り「足=フット」を基本にしています。それに比べて、新しい単位系、現在国際単位系SIといわれて使われている単位は、「人間以外のもの」を基準としています。例えば長さの「メートル」は「子午線の4万分の1」がもともとの決め方でしたので、「地球中心」の考え方です(現在は原子の動きをもとに1秒が正確に決められていますので、光が一定の時間に真空中を進む長さ、という決め方に転換されています)。
実は、これと同じことが、「テンポ」にも言えそうです。ベートーヴェン以降の作曲家は、「メトロノーム」というテンポを刻む道具を手にしたため、「四分音符=120」などの機械的な表示を伝統的な「アレグロ」表示の横に書き記すことによって、「正確な、機械を中心としたテンポ」を明示することが出来るようになりましたし、多くの作曲家がメトロノーム表示を伝統的な「モデラート」などの言葉の横に併記しています。