タケ×モリの「誰も知らないJ-POP」
巷には音楽の映像が溢れている。大都市の交差点のビジョンでは一日中最新チャートにランクされている曲や新曲のミュージックビデオが流されている。地上波こそ少ないもののBSやCSでは洋楽邦楽を問わず様々な音楽番組が放送されている。
でも、その多くがミュージッククリップの紹介かライブ中継に限られている。新たに制作された音楽ドキュメンタリーはかなり限られていると言っていいだろう。
11月23日から公開される映画「さらば青春の新宿JAM~THE COLLECTORS」は、日本ではあまりお目にかかったことのない音楽ドキュメンタリーだった。
「ロフトに出られないからJAMだった」
「階段を降りるとそこは『スウィンギング・ロンドン』だったんだ」--。
映画にはそんなキャッチフレーズがついている。『スウィンギング・ロンドン』。1960年代の半ばのロンドンはそう呼ばれていた。ビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フーと言ったバンド。ミニスカートやピーコック革命と呼ばれた原色のファッション。新しい音楽とファッションのビートに揺れるロンドンをそう呼んだ。
その中に「モッズ」と呼ばれる若者の集団があった。バンドで言えばザ・フーやキンクス。様々な音楽を取り込んだ柔軟な実験性が先鋭的だったビートルズともアメリカのブルースの影響の強いストーンズとも違うスタイリッシュに尖ったギターバンド。彼らを強く支持していたのが「モッズ」族。彼らを主人公にしたザ・フーのロックオペラアルバム「四重人格」をモチーフにして79年に公開され、世界的に大ヒットした映画が「さらば青春の光」だった。
23日から公開される映画「さらば青春の新宿JAM~THE COLLECTORS」は二つの要素で成り立っている。
一つは新宿にあったライブハウス「JAM」である。1980年に開店、2017年の大晦日で幕を閉じた老舗。とは言え、最寄り駅となっている都営地下鉄大江戸線の「東新宿」が開通するまでは新宿の外れ。すでに40年の歴史のある「ロフト」や88年から10年間、数々のビッグネームを送り出した「日清パワーステーション」のようなメジャーな店ではない。むしろアンダーグラウンドなロックバンドや新人バンドの登竜門として知られていた。初めてのライブがJAMだったというバンドも多かったはずだ。そういう意味では新宿で最もライブハウスらしいライブハウスだったと言えるだろう。
ただ、時の流れには抗いきれず、建物の老朽化と一帯の再開発の波に呑まれるように閉店してしまった。
その直前のクリスマスにスペシャルライブを行ったのが2016年に結成30周年を迎えたTHE COLLECTORSだ。映画はその一日を記録することが主軸となっている。
映画の中でTHE COLLECTORSのリーダー、加藤ひさしは「ロフトに出られないからJAMだった」と当時を回想していた。
「センチメンタルは要らないぜ」
THE COLLECTORSは、加藤ひさし(V)、古市コータロー(G)、山森JEFF正之(B)、古沢'cozi'岳之という四人組。結成が86年。インディーズからのデビューが87年。トップテンヒットやベストセラーこそないものの、コンスタントな活動を続け、2017年には武道館公演を成功させている。2018年11月7日に発売された新作「YOUNG MAN ROCK」は、23枚目だ。やはり映画の中で加藤ひさしは「今の方が忙しいのが不思議だ」と笑っていた。
THE COLLECTORSは当時の「モッズ」を継承しようとしている数少ないバンドだ。彼らが乗っていたのが前面のミラーを孔雀の羽のように装飾したデコレーションスクーター。着ているのがカーキ色のミリタリーコートと細身のスーツ。ヘアースタイルはマッシュルームカット。すでにロンドンですら見られなくなってしまったスタイル。彼らがなぜ「モッズ」に惹かれたのか、そして、今、日本でどんな風に残っているのかも追っている。
「モッズ」という言葉で80年代初頭に「めんたいロック」というムーブメントを引き起こした福岡出身のザ・モッズを思い浮かべる人もいるはずだ。当時の「スウィンギング・ロンドン」の「怒れる若者たち」のスピリットを体現しようとしたのがザ・モッズで、その中の都会的な「洒落っ気」や「センス」に啓発されたのがTHE COLLECTORSと言っていいかもしれない。新作アルバム「YOUNG MAN ROCK」は、そんな彼らの今の姿を表しているようだった。
映画「さらば青春の新宿JAM」を監督・編集・撮影もした川口潤は1973年生まれ。音楽専門チャンネル、スペースシャワーTVで番組を制作、独立後は番組だけではなくミュージック映像や硬派なロックバンドなどのドキュメンタリーを手掛け、ロックファン注目のクリエーター。当時を知らない世代があの頃、何があったのかを知ろうとするドキュメンタリーでもある。JAMに出演していたバンドや若いミュージシャン、リリーフランキーらも登場している。
落書きだらけの楽屋や手を伸ばせば届いてしまいそうな天井。決して綺麗とは言えない小汚い雑居ビルの地下のライブハウスだからこそ物語る時代の青春――。
映画は再開発で姿を消してしまった跡地での加藤ひさしの述懐で終わる。「懐かしいとか寂しいとかいう感覚はない」という感想が、「センチメンタルは要らないぜ」というバンドたちが作ってきた場末のライブハウスの最後にふさわしいように思った。
街は変わる。そして店は姿を消す。そうやって時が流れてゆく。新宿が音楽の街だったのはいつごろまでだろう。
今、新宿でロックが聞こえるだろうか。
(タケ)