決定のための道具のプラグマティックな取捨選択の重要性
サンスティーンの主張として、熟議の重視と並んで重要なものに、「司法ミニマリズム」という考えがある。司法ミニマリズムの要点を表すために、サンスティーンは連邦首席裁判官のジョン・ロバーツの次の言葉を引用している。
「思うに、事案を解決するにあたり、それ以上のことを決定する必要がないということは、むしろそれ以上のことを決定しない必要があるということだ」
サンスティーンによれば、うまく機能している憲法秩序とは、「完全には理論化されていない合意」を通じて問題を解決しようとするという。ある問題の処理に際して、その処理の内容については合意できるとしても、どうしてそのような処理になるのか、その理由を詰めだすと、人々の間に大きな違いがあることが明らかになることがある。この場合、司法ミニマリズムには、当座の問題を解決し前に進むうえで、一定のメリットがある。
第3章「司法ミニマリズムを越えて」は、このようなメリットを述べつつ、同時にサンスティーンは、司法ミニマリズムは、誤った合意をただす機会を逸することになるというデメリットがあることに注意を促している。
社会的決定に至るための道具は、状況次第でメリットをもつこともあれば、デメリットをもつこともある。本書の基本的なメッセージはこのようなものである。その上で、それぞれがどのような場合にメリットを発揮し、どのような時にそのデメリットが座視できないものとなるのか、汎用性の高い原則を抽出しようと試みている。
ともすれば、熟議が絶対であるとか、逆に民主主義で重要なのは利害の合計だけであるとか、司法は消極的であるべきとか、司法は正義の実現に積極的に関与すべきであるとか、なにかの端的な真理があるかのように語られることがある。本書はそのような立場から離れ、決定のための様々な道具があり、そのなかから状況に応じて優れた道具を使えばよい、というプラグマティックな勧告をおこなっている。
経済官庁 Repugnant Conclusion