小田和正、70歳代最初のツアー
皆で歌うことがこんなにも美しい

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でも、泣いてもいいんだと思わせてくれる

   今年のツアー「ENCORE!!」は、70代最初のツアー。「ENCORE!!」というのは、人生のアンコールという意味もあるように思った。

   「次がいつになるかという約束が出来ない年齢になった」というMCは、毎回繰り返されていたのではないだろうか。

   同世代や同時代を生きた音楽仲間や友人知人の訃報。意識的に「振り返る」ことをしなくても、そういう人たちとの時間が思い出される年齢。生きて来たこれまでと、今生きている自分、そして、この後に残されている時間。どんな風に生きてきて、どんな風に終わって行くのか。恒例となった全国各地でのふれあい映像を挟んだコンサート時間は3時間20分。何と32曲に及んだ曲の多くがそういう曲が選ばれているようだった。

   オフコース時代の曲「生まれ来る子供たちのために」の中の「力の限り漕いでゆく」「その力を与え給え」や「君住む街で」の「その生命が尽きるまで」などという歌詞が、当時とは違う切迫感を持って聞こえたのは筆者だけではないだろう。

   「みんなで作って行くコンサートにしたいと思います」と彼が言ったのはコンサートが始まってすぐだ。彼の合図で1万人を超す観客が声を合わせる。2008年のシングル「今日もどこかで」では、客席のコーラスも歌声を「会場のみんなとバージョン」としてCDになった。

   みんな一緒に歌うだけではない。客席に降りて行き歩きながら「ラブストーリーは突然に」を一人一人にマイクを向けて歌わせる。最終日らしくステージ横に集まっている全国のイベンターも合唱に参加する。「また会う日まで」ではミュージシャンがアカペラコーラスに参加していた。声を張り上げるとか、大声で歌うというのではない。「心のハーモニー」とでも言おうか。合唱がこんなに美しく聞こえるコンサートがあるだろうかと思った。

   振り返ることで何かが浄化される。

   どんなに強気に、どんなに躓いて、どんなにはみ出しながら生きて来たとしても、誰も間違っていない。全てが許される。音楽がそう感じさせてくれる「教会」のような場所というのだろうか。宗派もないし、教祖もいない。誰かに"捧げる"祈りも"拝む"こともない。でも、泣いてもいいんだと思わせてくれる。

   70代の到達点。「優しさ」というのは、こういうコンサートを言うのだと思った。

(タケ)

タケ×モリ プロフィール

タケは田家秀樹(たけ・ひでき)。音楽評論家、ノンフィクション作家。「ステージを観てないアーティストの評論はしない」を原則とし、40年以上、J-POPシーンを取材し続けている。69年、タウン誌のはしり「新宿プレイマップ」(新都心新宿PR委員会)創刊に参画。「セイ!ヤング」(文化放送)などの音楽番組、若者番組の放送作家、若者雑誌編集長を経て現職。著書に「読むJ-POP・1945~2004」(朝日文庫)などアーテイスト関連、音楽史など多数。「FM NACK5」「FM COCOLO」「TOKYO FM」などで音楽番組パーソナリテイ。放送作家としては「イムジン河2001」(NACK5)で民間放送連盟賞最優秀賞受賞、受賞作多数。ホームページは、http://takehideki.jimdo.com
モリは友人で同じくJ-POPに詳しい。

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