警世の書と後世の評価
冷徹な観察と人類存在の徹底した相対化が異色の歴史ストーリーに結実したのが前著『サピエンス全史』であった。上記引用から分かるように、本書は、その『サピエンス全史』をプロローグとして、人類の未来の選択肢を例示し、現代社会に軌道修正、より大胆には革命を求める警世の書と思われる。
本書もすでに400万部を超える売り上げと聞く。著者の巧みな表現力が、そうした警鐘を広く世界中に知らしめているとすれば、本書はその実質のみならず手段もまた極めて秀逸な書籍と言うべきだろう。
同時に、氏が前著で歴史学に人々の「幸福」という尺度を導入したことも、本書の伏線であったと読むことができる。キリスト教やイスラム教さらには自由主義といった信条をも厳しく相対化しながら、氏が仏教や瞑想に対して一定の積極的な評価を下しているらしきことも、「幸福」探しをしている現代人には興味深い寄る辺となるかも知れない。
恐るべき未来がすぐそこにあるからこそ、そこに生じるであろう数多の弊害を除去する備えは今から必要である。己を取り巻く制約条件の一切を取り払うことは不可能であろうが、そう努めることによって、より自由な選択が可能となる。
往々にしてこうした警鐘は、結果的には悪い未来が生じた後に「あの警鐘者は慧眼であった」と、後悔とともに振り返られるものだが、ハラリ氏に対する後世の評価はどうなるであろうか。
酔漢(経済官庁・Ⅰ種)