自分以外できないことをマニアックにならずに
もう一つの感想が肝心な音、だ。
ヴァイオリンの入ったロックバンドとして真っ先に思い浮かぶのがLUNASEAだろう。ギターのSUGIZOが弾くヴァイオリンがバンドの美意識を増幅するアクセントになっていた。でも、SUGIZOの音楽性の一つという印象だったLUNASEAに比べると、BIGMAMAはバンド自体の成り立ちがそこにあるという強烈なインパクトがある。
ヴァイオリンの入ったロックバンドという存在証明。ロックオペラのような悲劇性を強調した曲から踊りだすような躍動感。全曲で存在感を存分に発揮している。色を添えているとか表情を豊かにしているという程度ではない。ヴァイオリンとギターが真正面から激しくバトルしている。まるでヴァイオリンがロックのための楽器であると言わんばかりなのだ。
しかも、一曲の中でフレーズに応じてリズムや編成が変わったりする。それを機械に頼ることなく全員の演奏で表現している。
クラシックのようでありプログレッシブロックのようであるという構築されたヘビーメタル。言葉も含めた作家性をここまで突き詰めたアルバムは思い当たらなかった。
「徐々にそうなって行きましたね。最初からそこまでの自覚性はなかった。高校の時にヴァイオリンを弾く同級生がいて、その子とバンドを組もうと思ったところから始まってますから。ミュージシャンになりたくてなった人と比べると辞められない理由が増えてきたから続けている。着実に段階を踏みしめて喜びを感じてきたバンドなんです。寄り道もあったけど、無駄じゃなかった。価値ある10年だったと思います」
そもそもはヴァイオリンの入ったアメリカのパンクバンド、イエローカードに刺激されてコピーすることから始まった。BIGMAMAも当初は英語で歌っていた。その中で自分たちがやるべきこととその喜びを見つける過程がインディーズの10年だったことになる。
前作発売時のインタビューでは「USとUKの真ん中にあるJPを邦楽ロックと言う形で射抜きたい」と発言していた。
「他人がやってること、すでにあるものは僕らはやらなくていいと思ってるんです。自分以外にやれない、書けないものを見つけてマニアックにならずにやりたいと思ってます」
インディーズからメジャーへの「お引越し」。周囲の住人もそこから見える景色も違うはずだ。そして、彼らのことを今まで知らなかった人とも出会ってゆく。
「初めて楽しんでくれる人とのやりとりだけじゃなく、これまで聞いてくれた人たちだから分かる過去作の主人公と重なるようにも作ってます」
誰にも似てないロックバンド。その最たるものがライブだろう。12月25日、クリスマスの赤坂ブリッツからツアーが始まる。アルバムタイトルは「出会いと別れの温度差」だという。冬の屋外とは別世界のような温度差のある熱いライブ空間が展開されるに違いない。
(タケ)