今年(2018年)が没後100年のメモリアルイヤーであるドビュッシーの、今回は代表作を登場させましょう。管弦楽のための「海」という作品です。
音楽の道を選んでなければ船乗りになっていた
クラシック音楽の中ではリストが創始した「交響詩」に分類されることが多い曲ですが、ドビュッシー自身は「交響的素描」と名付けています。確かに、交響詩は文学作品の内容をインスピレーションとして作られることが多い管弦楽作品ですから、文学的原作を持たず、「海」そのものを描いているこの作品は、交響詩、ではないのかもしれません。
この曲が書かれたのは1905年。1894年に「牧神の午後への前奏曲」を発表し音楽界に衝撃を与え、20世紀に入ってオペラ「ペレアスとメリザンド」を完成させていたドビュッシーは、40代になって、作曲家として確固たる地位を築いていました。
彼はピアニストとしてもすぐれていたので、「ベルガマスク組曲」などに代表されるピアノ作品や歌曲作品もすでに数多く傑作を発表していましたが、オーケストラの作品においても、円熟期を迎えていたといってよい時期でした。
そんな彼が、力を入れてオーケストラの作品を書こうと思い立った時に、題材に選んだのは「海」でした。パリ郊外の生まれですが、幼少期に南仏カンヌの親類のもとで生活したことのあるドビュッシーは、自ら、音楽の道を選んでなければ船乗りになっていた、と友人に書き送ったぐらいです。