ヒトと微生物との「関係回復」へ未知の分野に挑む

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大脳のはたらきに影響を与える細菌

   微生物の影響は大脳にも及んでいる。破傷風菌、トキソプラズマがそうだ。統合失調症の患者集団におけるトキソプラズマ有病率は一般人の3倍だという。うつ病患者は血中のトリプトファン濃度が低いことが多いが、その原因も体内の細菌にある。つまり、うつ病は免疫系の機能不全の可能性がある。

   肥満を脂肪、糖分、カロリー摂取量で説明することはできない。世界でも貧しい国で知られるブルキナファソ人の食事は、6.5%が食物繊維と、イタリア人の3倍にのぼる。1940年代の英国人の食物繊維摂取量は1日およそ70グラムと現在の3倍以上だった。

   穀類、豆類、果物、野菜など植物性食品を食べると、植物の細胞壁を分解する腸内細菌が増える。微生物が食物繊維を分解すると酢酸、プロピオン酸、酪酸が出てくる。脂肪細胞や免疫細胞の受容体「GPR43」は、これを受け取って、満腹中枢を刺激し、免疫系を正常に働かせる。こうした機能による健康増進も、研究の進展が待たれている。

   微生物の研究の進展は、腸内細菌にとどまらない。海洋汚染も、河川の浄化も、土壌汚染も、化学物質の大量使用により人間が微生物に与えた影響による部分があることは間違いない。目には見えない微生物の生態系に関心を寄せる研究者の成果が、健康問題と環境問題の解決につながることを期待したい。

経済官庁 ドラえもんの妻

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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