写真が教える認知症の人の歴史
本書の最大の特徴は、遡ること50年以上前、特別養護老人ホーム(老人福祉法)がスタートした1963年(昭和38年)から、高齢者の姿を撮り続けてきた写真家(田邊順一氏)の作品が、「写真が物語る認知症の人の歴史」として80ページにわたって掲載されていることだ。
前半では、以下のような過去の悲しい時代の生々しい姿が写し出されている。
・一部屋に20ものベッドが隙間なく並ぶ老人病院
・ベッド上で両手を拘束されている認知症の高齢女性
・1室、12のベッドで一斉に行われるおむつ交換
・弄便防止のためのつなぎ服を着て廊下を歩く入所者
など
これらは決して大昔のことではない。いずれも評者自身が若い頃、つまり、ほんの30年前に直接、目にしたり、あるいは、いくつものルポルタージュで読んだことのある内容である。
後半では、「四半世紀経って・・・」と題して、筆者が以前、ホーム長をしていたグループホームで暮らす認知症の高齢者の人々の様子が載せられている。
・その日の献立の材料を皆でスーパーに買いに出かけている様子
・入居者全員で役割分担しながら、調理を行っている様子
・自分の食器は自分で洗う、このホームの習慣
など、どの写真でも、例外なく入居者は笑っている。
なぜこんなに元気になったのか?
田邊氏の謎解きによれば、次のようになる。
「おそらく、ここが自由の広場だからではないだろうか。徘徊、物忘れ、火の元などをめぐって一人でかかえてきた緊張感がここで暮らすうちにとけていったのかもしれない。ここでは何をしても許される。(中略)そして、この人たちはここで自分が必要とされていることを実感したのではないだろうか」
将来に向けて、こうした到達点を後退させることなく、前に進めていくことが必要だ。
認知症のケアが以前に比べて大きく改善してきたことは間違いないが、残念ながら、全国何処でも、本書で紹介されているグループホームのような支援が行われている状況ではない。
また、認知症となった方への支援だけでなく、「がん」と並んで人類にとって最大の健康課題となっている「認知症」そのものを克服していく対策も、本格化させていく必要があろう。
近い将来、今の状況が、過去の歴史だったとして振り返ることができる日がやって来ることを心より願わずにはいられない。
JOJO(厚生労働省)