座敷牢からグループホームへ
今日の日本の認知症ケアの到達点を示すものとして、本書の冒頭で取り上げられているエピソードが印象的だ。
以前、英国の厚生労働副大臣等が、著者が所属する法人のグループホームを視察にやってきた際に、入居者たちとの間で次のような会話が交わされたという。
訪問客「今日の夕食は何ですか」
入居者「まだ、決まっていません。これから決めて、買い物に行って作るんですよ」
訪問客「自分たちで作るんですか」
入居者「もちろんです。楽しいですよ」
視察者達が、入居者の生き生きとした表情に驚いて、「ここはどういう方針でケアしているのか」と質問したのに対し、著者の答えは、次のようであったという。
「『徹底した自立支援』というやり方で支援しています。自分たちのことは自分たちで決めて、自分たちで行うやり方です。やって差し上げる介護をしないで、ご本人たちがもっている力で、主体的に生活するのを支えるということです。職員はそれをサポートする立場です。そうしたところ、こんなふうに生き生きと思えるような生き方が少し実現できるようになったのです。日本の認知症ケア・支援の一つの到達点です」
このように外国からの視察者に誇らしく語ることができるようになったのは、介護保険がスタートして以降、各地にグループホームなど、地域に密着した小規模な施設がどんどん増えていった、ここ十数年のことだ。
前述のように、それ以前はとても辛く、厳しい状況だった。
著者の言葉を借りれば、
「ここに至るまでの歴史というのは、悲しいものです。認知症になってしまった人の多くは、これまで悲惨ともいえる姿で生き、そして亡くなっていかれました」