「靖国」の反撃ぶりもよく分かる
また、靖国神社では、今年3月に就任したばかりの小堀邦夫宮司が神社内の勉強会で「天皇陛下は靖国神社をつぶそうとしている」などと発言したことが報道され、辞任することになった。靖国は単立宗教法人ではあるが、もちろん、神社本庁と無縁ではない。神社本庁と、連合国軍総司令部(GHQ)から「ミリタリー・シュライン」と呼ばれた靖国神社が占領期をどう生き抜き、手を取り合いながら反撃に転じたのか。この本を読むとよくわかる。建国記念の日制定で自信を取り戻した神社界が次に照準を合わせたのが「靖国神社国家護持」、つまり、「靖国法案」の成立だった。だが、その運動が暗礁に乗り上げると、「英霊にこたえる会」に看板がかけかえられ、首相らの公式参拝実現運動へ方針転換した。
著者は、それは国家護持への迂回戦術であり、「急がばまわれと揶揄もされたが、それは保守運動の柔軟さ、狡猾さの表れであり、目的達成への執念深さを物語っている」と述べる。同様に、「元号法制化実現運動」をめぐって、ノンフィクション作家、猪野健治の読み解きを紹介している。「猪野によれば、神社本庁や生長の家などの靖国推進派は、日本の『慣習』として続いている元号をわざわざ持ち出して、法律で規定しようとすることで、反対派の意見を封殺し、靖国法案に反対してきた教団の分断を図った」「推進派は元号法案を成立させたことで確実に『一点突破』を果たした。反対運動はこれによってその一角が崩れたと言っていい」。猪野の見解は説得力がある。
つまり、こういうことなのだろう。本書は神社本庁による運動・内紛を通じ、彼らの思考回路と戦術を読み解こうとした解説書なのである。彼らはどこから来て、何のために組織し、どんな価値観をもって運動してきたのか、どこへ向かうのか。ちなみに、神道政治連盟国会議員懇談会の現職会長は安倍晋三首相が務める。おもしろい本だ。
価格は860円(税抜)。